第27話 サルマン騎士団長の失脚

「サルマン団長、観念しろ。もうあんたに逃げ場はない」

「私が、この私がこんな事で……! おのれ、貴様ら! この私を誰だと思っている!?私は騎士団長だぞ!このような不当な扱いが許されると思うのか!?」

「まだそんな寝言を言っているの? いい加減に現実を見なさいよ」

「なに!?」

「あんたは身分の特権を利用して、騎士の誇りを穢した。誇りを踏み躙り、欲望を満たす事に腐心した。そんなあんたは騎士団長に相応しくないわ。騎士団長は国を守る剣であり盾であるべき存在よ。それが誇りを忘れ、堕落した挙句に私腹を肥やすなんて論外だわ」

「う、うるさい! 黙れ! たかが女風情が私に意見するな! 私は団長だぞ、騎士団を束ねる立場なのだぞ! 私を侮辱した罪は重い! 即刻、首を切り落としてやる!!」


 サルマンは団長室の壁に飾ってあった抜き身のサーベルを手に取ると、フィーに斬りかかる。

 だが、即座にエルウッドが動いた。彼はサルマンの手首を掴み取り、サーベルを取り落とす。そのまま腕を捻り上げて床に押し倒した。


「うぎゃあっ!?」

「フィーさんには指一本触れさせない! 彼女を傷つけようとするなら……俺は貴方を許しません!」


 エルウッドの怒りに満ちた視線を受け、サルマンは恐怖に震えあがる。


「さあ、大人しく投降してください!」

「くっ……クソが! こんな所で終わってたまるか! 私は大貴族とも付き合いがあるんだ! 平民如きが逆らって良い相手ではないのだ!!」

「サルマン団長。あなたは貴族を利用して、己の利益の為に多くの人を不幸にした。これ以上罪を増やさないでください!」


 追い詰められたサルマンが叫び声を上げる。騒ぎを聞きつけた騎士たちが団長室に押しかけてきた。

 サルマンの声は部屋の外まで漏れていた。騎士たちはサルマンに向けて蔑んだ視線を注ぐ。


「な、何だお前らその目は!? 私を見るんじゃない、このクズ共が! 今すぐ出ていけ! 早く出ていかないか、この無礼者どもが! おい、こいつらをつまみ出せ!!」

「つまみ出されるのはあなたですよ、サルマン団長――いえ、元団長。逮捕状が出た以上、あなたはもう騎士団長の地位にありません。大人しく出頭してください」

「なっ……何だとぉ!?」

「それに横領罪がなくても、今のあなたの行動は恐喝、暴行、殺人未遂に該当します。これ以上余罪を重ねる前に、大人しく出頭してください」


 エルウッドは言い含めるように言うとサルマンを立たせる。そして彼を拘束し、団長室に集まってきた騎士たちと共に連行していった。

 団長室に残されたフィーとアーヴィン。二人は顔を見合わせると、安堵のため息を漏らす。


「ふう……何とか片付いたみたいね」

「ああ。これでサルマン団長の悪事は全て白日の下に晒されるだろうよ」

「それにしても、たった三、四日の間にあそこまで悪事の尻尾を出すなんて……今までよっぽど上手く隠し通してきたのね」

「今まで上手くやって来たから大胆になっていたんだろうよ。それにまさか水晶玉で遠隔監視されるなんて思ってもみなかっただろうしな」


 フィーの魔力遠隔監視は、今のところ魔女だけが使える高位魔法だ。一般の人々の間では、そんな魔法がある事自体が認知されていない。

 だからこそ水晶玉の映像だけでは証拠として弱いのだが、映像から得られた情報を元に台帳や関与人物に当たったところ、王国裁判所でも通用する証拠が幾つも手に入った。サルマンの有罪は免れないだろう。


「これでサルマンも終わりね。まあ自業自得だけど」

「だな。しかし、フィーちゃんも中々に怖い子だよな。あんな魔法を使えるんなら、エルウッドはおちおち浮気もできねぇな」

「ちょっと、私は別に……!」

「冗談だって。怒らないでくれよ」

「ふんっ……」


 フィーは不機嫌そうに赤い顔を背ける。そこにエルウッドが戻ってきた。


「アーヴィン、フィーさん。ありがとう、助かった」

「いいってことよ。それよりサルマンは?」

「裏門に裁判所の馬車が来ていたから引き渡した。それにしても驚いたな、二人が結託していつの間にかサルマン団長のことを調べていたなんて気付かなかった」

「だろうな、お前は政治的な駆け引きとか腹芸とか、上手い立ち回りなんてまったく出来ないタイプだもんな。だから俺のような副官や、フィーちゃんのような嫁がいるのさ」

「そうそう……って、誰が嫁よ!?」

「アーヴィン……重ね重ねありがとう。俺は良い親友と良い伴侶を持てて幸せだよ」

「えっ、エルウッドまで何言ってるのよ!?」

「はっはっはっ! 照れるなって!」

「なっ!? なんでそうなるのよ!? もう知らないっ!」


 フィーは真っ赤になって団長室を飛び出して行ってしまった。その後ろ姿を見送った後、エルウッドは嬉しげな笑みを浮かべた。




 それからサルマン元騎士団長は裁判所で徹底的に調べ上げられた。

 その結果、アーヴィンとフィーが暴いた罪は事実だと確定。さらに余罪も色々と出てきた。サルマンと付き合いのあった貴族たちは、サルマンとの関与を疑われるのを嫌がって関わりを否定。サルマンは後ろ盾を失った。騎士団長の立場も取り上げられ、投獄されることになる。

 そして新たな騎士団長の座には、これまでの功績を評価されたエルウッドが就任する事になった。

 王国騎士団本部では、腐敗したサルマンが失脚し、若く気高い騎士のエルウッドの新団長就任が大いに歓迎された。ちなみに副団長にはアーヴィンが任命された。

またサルマンによって不当に解雇された騎士たちも再雇用され、サルマンに恨みを抱いていた騎士たちは歓声を上げたという。

 こうしてサンドラ王国騎士団は、エルウッド団長の元、新たな体制に移行するのだった。

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