第26話 不正の証拠

「フィーさん、アーヴィン……!?」

「エルウッド、あなたの言いたい事は分かるわ。私も同じ気持ちよ」

「フィーちゃんの言う通りだぜ。今の話は外まで聞こえてきていた。団長の発言は流石に見過ごせないな。というより団長は団長で、自分の発言が問題だって心の底では気付いているみたいだけどな」

「う、うるさいぞアーヴィン君! 君も私の邪魔をする気か! 私は団長だぞ! 君如きが逆らうなど……」

「ハッ、頼みの綱の貴族様の威光を使うつもりか? 残念だがあんたのその手は通用しない。つーか、サルマン団長には横領罪疑惑で逮捕状が届いている。ほら、これだ」


 アーヴィンは後ろ手に隠していた逮捕状をサルマンに見せつけた。間違いなく、王国裁判所から発令された逮捕状だ。サルマンは顔色を変える。


「なっ……何を言い出すんだアーヴィン君!? 私はそんな事をしていないぞ! 適当な事を言わないでくれたまえ!!」

「適当じゃない。あんたは連日、貴族相手に接待と称して遊び歩いたり、派手なパーティーを開催していたな。そしてその金を捻出するのに、騎士団の費用を横領して着服していた。違うか?」

「バカを言え、証拠でもあるのか!?」

「ええ、あるわ」


 フィーが前へと歩み出る。彼女は水晶玉を持っていた。呪文を唱えると、水晶玉に映像が映し出される。

 サルマン団長が騎士団本部の事務室で、経理の職員相手に横領を持ち掛けている姿が映っている。




『おい、例の金は用意出来ているんだろうか?』

『はい、団長。ご指示の通り、騎士団で使用する薬品、備品、武器防具類を発注する業者を正規業者から安い業者に変えました。しかし書類上は正規業者のままにしてあります』

『ふむ、ふむ……いいぞ、これで浮いた金が懐に入ってくるな』

『ですが、本当にこんな事をしていいのでしょうか? 騎士団運営に充てられる費用は国防費、国民の血税ですのに』

『なあに、バレなければ問題ない。ほれ、君にもいくらかボーナスに色をつけてやったぞ。受け取り給え』

『ありがとうございます……!』

『くっふっふ、これからもよろしく頼むよ』




 サルマンは経理の職員に分厚い封筒を差し出す。職員が受け取ると、肩に手を置いていやらしく笑った。


「な、な……!?」

「数日前、あなたに焼き菓子をあげたの覚えてる? あれにはね、私の魔力を混ぜてあるの。あなたの体内で私の魔力が吸収されるまで、約二週間ってところかしら。その期間内であれば、この水晶玉にあなたの行動を映し出す事が出来るのよ」

「こ、小娘が……! 貴様……っ!!」

「ったく、フィーちゃんから団長の行動を監視しようって持ち掛けられた時は、どうなるかと思ったけどな」


 ブラッドクロー討伐に向かう直前、エルウッドの屋敷を訪ねたアーヴィンに耳打ちしたのは、こういう内容だった。

 ――自分の魔力を混ぜたお菓子をサルマンに食べさせる。そうすれば遠隔監視が出来る。サルマンがエルウッドを陥れるような行動を取れば、証拠が残る筈だ……と。

 もっとも予想以上に早く事件が片付いたので、サルマンがエルウッドを陥れる工作をする暇はなかった。

 しかし別の不正に関する証拠がいくつも見つかった。


「おかげでサルマン団長の不正が発覚した。もちろんフィーちゃんの映像だけじゃ証拠として弱い。俺らは昨日の段階で経理職員に接触し、この映像を見せて詰め寄った。すると案外臆病だったようでな、正直に吐いてくれたぜ」

「なっ!?」

「正規業者および、密かに切り替えていた格安業者にも接触したわ。その結果、正規業者への発注はこの数ヶ月で激減している事が発覚。格安業者への発注数と比較すると、騎士団が買った備品の数と一致するわ」

「だが書類上は業者切り替えの記述がなく、以前と同じ費用が申請されている。この数ヶ月で着服されたと思しき費用は――三百万ゴールドに及ぶな」

「ひ、ひぃっ……!?」

「それだけじゃないわ。あんた、お金欲しさにスラムのギャングとも手を組んでいたようね。特定のギャングファミリーと癒着して、大量の献金を受け取る代わりに市民からの被害届は抹消。おかげでギャングは悪質な地上げ行為や、女性を悪質な手口で売春宿に売り飛ばしてやりたい放題……」


 フィーの持つ水晶玉の映像が切り替わる。サルマン団長が下町の高級酒場兼娼館で、ギャングの幹部相手に酒を酌み交わし、大笑いしながら談笑している様子が映し出された。

 幹部はサルマン団長に何かを差し出す。一見すると菓子の箱のようだった。だが時間をスキップして、帰宅したサルマン団長が菓子の箱を開くと、中に入っていたのは菓子ではなく宝石の数々だった。

 サルマン団長はニヤリと笑うと、執事に宝石を近日中に売り捌き、金に換えるよう指示を出している。


「金品授受を目撃されると困るから、お菓子の箱でカモフラージュしたんでしょうね」

「ち、違う! これは何かの間違いだ! そうだ、これは幻覚魔法の一種だ! 私を陥れる為に捏造したものに違いない!!」

「いや、あんたが取引した宝石商にも接触して裏は取った。昨日の夕方、あんたの家の執事が何点かの宝石を売りに来たんだってな。売った宝石はルビーにエメラルド、サファイヤにダイヤモンド……数といい種類といい、あんたが受け取った賄賂の宝石とピッタリだ」

「宝石の出所も現在裁判所で再調査が進めているわ。すぐに結果が出るでしょうね」

「ぐっ……!」


 サルマンは壁際に追い詰められる。その顔色は真っ青に染まり、顔中に脂汗が浮かんでいる。

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