パワハラ騎士団長ざまぁ編

第25話 サルマン・モーリスという男

  翌日、エルウッドが騎士団本部に出勤すると、早々にサルマン騎士団長から呼び出された。

 団長室に行くと、でっぷり太ったサルマンが苦虫を嚙み潰したような顔でエルウッドを睨む。


「エルウッドくぅん、また独断専行をしたようだね。三日間も騎士団を留守にして……君が不在だったせいで片付いていない仕事が山のようにあるのだよ」

「は、申し訳ありませんサルマン騎士団長。しかし報告書に提出した通り、ブラッドクローは早急に討伐する必要がありました。あと一日でも到着が遅れていたら、村は壊滅していたかもしれません」

「そんな事は関係ない! 大体、あの村は王国にとって要衝でも何でもないだろう。団長であるこの私が、優先度は低いから急がずとも良いと判断したのだよ。だというのに君は団長の判断を無視して勝手に飛び出して……あんな小さな村、潰れたところで大した問題ではないだろう!!」

「っ……それはあまりにも……!!」


 あんまりな言い分にエルウッドは拳を握り締める。しかしサルマンは構わずに続けた。


「いいかいエルウッド君、君が不在の間に溜まった書類仕事が山のようにあるのだよ! まったく、どうしてくれるのだね!?」

「……お言葉ですが団長、私が担っている書類仕事の大半は、本来団長がなすべき業務です。団長が接待に出歩いているから、副団長である私が代行している仕事がほとんどです。その私がいなくて困るのは団長の方ではないのでしょうか」

「き、貴様! 私の自業自得だとでもいうのか!!」

「私は事実を述べているだけです」


 自分の事を悪く言われるだけなら良い。エルウッドは黙って耐える性格だ。

 だが今回ばかりは黙っていられない。サルマン団長はあの村を見捨てれば良かったと言っているのだから。

 困っている無力な民を見捨てろと、騎士団長の立場で言っているのだ。これにはエルウッドも引き下がれない。騎士として守らなければならない矜持がある。


「そもそも君は以前から生意気なのだ!私に意見するなど……身の程を弁えろ! いいかねエルウッド君、君には罰を与える。今すぐ荷物をまとめて出て行きたまえ! 貴様は首だ、騎士団から追放する!!」

「なっ……そんな横暴な! 騎士団長は団員を解雇できる権限をお持ちだとは思いますが、それはあくまで正当な理由がある場合のみです。今の団長の沙汰は、明らかに不当なものです!」

「命令違反に独断専行、職務放棄! これが不当だとでも言うつもりかね!? 従いたまえエルウッド君、これは決定事項だ!反論は一切認めん!」


 サルマンの背後には大貴族がいる。世渡り上手なサルマンは騎士団の仕事はそっちのけで、大貴族たちと繋がりを持つ事に心血を注いでいた。

 おそらくこの場でエルウッドをクビにしても、すぐに別の人材を派遣してくるだろう。それもサルマンにとって都合の良い人物が……。


「団長……あなたに騎士の誇りはないのですか!?」

「ふんっ、誇りだと? 誇りで腹が膨れるかね!誇りで欲望が満たせるかね!? 下らん、貴様の言う事は一から十まで下らん! さっさと出ていけ!この愚か者め!!」


 こちらの言葉など聞く耳持たずといった様子で、サルマンは怒鳴り散らす。

 エルウッドは呆然と立ち尽くした。今までどんな理不尽な扱いを受けても我慢してきたが、さすがに見過ごすわけにはいかない。


 ここでエルウッドが退けば王国騎士団からは誇りが失われ、私腹を肥やし享楽に耽るサルマンの手で、際限なく腐敗していく事だろう。

 力ある者が無力な者を庇護せず、虐げる側に回ればどうなるか?

 王国からは秩序が失われ、ひいては国の荒廃に繋がっていく。

 だからこそ力ある者、身分の高い者は高潔であらなければならない。

 他人から馬鹿にされようと、己が損をしようとも譲れない信念を抱き、その信念を誇りとして貫かなければならない。

 それはエルウッドが騎士だった亡き父から教わった事だ。その言葉を胸に秘め、エルウッドは今日まで生きてきた。


(父さん、俺は間違っていないですよね?)


 胸中で問いかける。父はエルウッドが間違った事をすると、厳しく叱りつけた。

その父ならどうするか? ここでサルマンに唯々諾々と従えば、きっとその時こそ父は怒るだろう。エルウッドは真っ直ぐサルマン団長を見据える。サルマンはたじろいだ様子を見せる。


「団長、私は――」

「待って、エルウッド! まだ答えを言う必要はないわ!」


 その時だった。団長室の扉が開き、フィーとアーヴィンが入ってきた。

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