第24話 王都へGo!

 翌朝、再会したフィーは昨夜のことなど忘れたかのようにケロッとしていた。


「おはようエルウッド。この村の焼き立てパンとジャムとっても美味しいわよ」

「そ、そうですか、俺も一つ頂きますね」


 エルウッドもフィーに倣って、朝食のクロワッサンを口にする。サクッとした食感と共に、バターの香りが鼻腔を満たす。


「美味しいですね。これならいくらでも食べられますよ」

「でしょ? このベリージャムも最高なのよ! 森で採れるミックスベリーを使っているんですって。ほら、エルウッドも食べてみて」

「はい。……ん、本当ですね。甘酸っぱさがいいアクセントになっていますね」

「でしょでしょ! ……ところでエルウッド、あのさ……」

「はい、なんでしょうか」

「…………や、やっぱり、なんでもない」


 フィーは何かを言いかけて止めた。それから無言で食事を摂る。


「ご馳走さま。それじゃあエルウッド、そろそろ帰りましょうか」

「はい、分かりました」

「あ、そうだ。エルウッド」

「はい、なんでしょう」

「か、帰りは馬車を使いましょう。箒は長時間密着するから、今の状況的に良くないと思うのっ!」


 フィーの顔が赤い。やはり怒っているのかと思ったが違ったようだ。

 怒っているというより、恥ずかしがっているように見える。普段は強気なのに、こういう時は女の子らしい一面を見せる。そんなフィーが可愛く感じられた。


「そうですね。では行きましょうか」

「う、うん……」


 こうして二人は村を出て王都へと戻った。

 行きはフィーの箒でひとっ飛びだったので、半日程度で移動できた。しかし帰りは馬車なので二日半かかって王都に帰還する。


「しばらく留守にしてしまったけど、騎士団は大丈夫かな」

「アーヴィン君に任せてあるから大丈夫でしょ」

「そうですね。俺の首は危うくなるかもしれませんが、それも覚悟の上です。騎士団をクビになったら、いっそ冒険者として旅をして暮らすのも悪くないかもしれませんね」

「何言ってるのよ。エルウッドは騎士が一番向いているわ。私がいる限り、クビになんかさせないから安心しなさい」

「フィーさん……」

「あんたの生き方や考え方は、騎士そのものだもの。これからも騎士であり続ければいいのよ」

「……」

「エルウッド?」

「フィーさんは、どうしてそこまで俺を信じてくれるんですか」


 エルウッドはずっと疑問に思っていた事を尋ねた。自分の性格が愚直すぎると思う時は多々ある。フィーだって出会ったばかりの頃は迷惑しているように見えた。けれど今は、こうして隣にいてくれる。どういう心境の変化があったのだろうか。


「前も言ったでしょ、私も似たような境遇だから」

「竜殺しの呪い――ですか?」

「そう。あんたも私も竜殺しで呪われた身。あんたの呪いは無事解けたけど、私の呪いはまだ解けていない。どうすれば解けるのか、解呪に成功したエルウッドを観察すればきっと分かると思ったからよ」

「はい」

「だから側にいる、それだけよ」

「……」


 エルウッドはそれ以上何も言わなかった。それがフィーの本心なのかどうかは分からないが、これ以上聞いても、今以上の答えは得られないと思ったから。

 やがて馬車は王都に到着する。二人は早速騎士団本部に向かった。本部に入ると待ち構えていたように、アーヴィンが駆けつけてきた。


「ただいま帰ったぞ、アーヴィン」

「おう、おかえりエルウッド! ブラッドクローはどうだった!?」

「ああ、無事に倒した。村の被害も最小限に抑えられた。負傷者はフィーさんが治療してくれたから問題ない。後で改めて報告書を提出するつもりだ」

「流石エルウッド、仕事が早いな! フィーちゃんもお疲れ様。君のおかげでこんなに早く片付いたんだろ? いくらエルウッドでも移動時間はどうしようもないもんな」

「行きだけね。帰りはのんびり戻ってきたわ」

「ははっ、そっか。まあとにかく二人共、ゆっくり休んでくれ。俺は団長に今回の件を報告してくるから」

「分かった。また明日からよろしく頼む」


 アーヴィンと別れたエルウッドとフィーはそのまま自宅に戻った。

 エルウッドの屋敷では執事たちに帰還を喜ばれ、屋敷はたちまち大騒ぎになる。エルウッドも久々に屋敷で食卓を囲めて嬉しい。そして久しぶりにフィーとゆっくり過ごせる事に喜びを感じていた。

 だが、楽しい時間は長く続かなかった。

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