第15話 エルウッドの屋敷・夜

 エルウッドは団長室でサルマンにこってり絞られた後、ようやく解放されて屋敷に帰ってきた。屋敷に入ると、まずは執事が出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、エルウッド様」

「ただいま。フィーさんは来ているか?」

「はい。ご案内致します」


 執事が案内したのは二階にあるエルウッドの部屋の隣。フィーの為に用意するよう手紙に書いた部屋だ。コンコンとノックすると、すぐに返事があった。


「はーい?」

「フィーさん、エルウッドです。今帰ってきました。入ってもいいですか?」

「あ、エルウッド? どうぞー」


 ドアを開けると、フィーは部屋の中で楽しそうに調合をしていた。あまりに様変わりした部屋の様子に、執事が隣で顔を引きつらせる。


「こ、これは一体何事ですかな!?」

「エルウッドお帰りー。見てこれ、すごいでしょ?」

「はい、すごいですね。まるでフィーさんの家のようです」

「好きに過ごしていいって言われたから模様替えしちゃった。エルウッドの経過観察もあるし、この方がやりやすいもん」

「もちろん構いませんが、何を作っているんですか?」

「んー、これ? ポーション。エルウッドって忙しそうだし、部屋を貸してくれたお礼に作ってあげたのよ」


 フィーがぱちんと指を鳴らすと、調合窯の中に溜まっていた緑色の液体が、ガラス瓶に吸い込まれていく。


「はい、完成。この前の魔法は効きすぎたみたいだから、これは適度に効き目を抑えておいた」


 フィーは完成したばかりのポーションをエルウッドに渡した。エルウッドはお礼を言って受け取ると、早速ポーションを飲んでみる。


「おぉ、これは……! 体が軽いです!」

「疲労回復効果のある薬草を配合してあるからね。筋肉痛にも良く効くわよ。ちなみに痛み止めの効果もあって、筋肉の炎症も抑えてくれる優れものよ」

「素晴らしいです。フィーさんは本当に優秀ですね、ありがとうございます!」

「えへへー、でしょ? あ、でもあんまり飲み過ぎないようにね。使いすぎも身体によくないし」

「そうなんですか?」

「当たり前でしょ。人間って弱いんだから。無理するとすぐダメになっちゃうじゃない。エルウッドも若いからって、無茶な働き方ばっかするんじゃないわよ。魔法や薬で補ってあげるコトはできるけど、根本的には身体を休ませて大事にしなきゃいけないんだからね」

「はい、分かりました。肝に命じておきます」

「よろしい」


 フィーは上機嫌になって鼻歌を歌いながら、テーブルの上に置かれたポーションの瓶を手に取る。


「あ、執事さんも飲みますー?」


 彼女はポーションの瓶をちゃぷちゃぷ振る。蛍光緑の液体が瓶の中で波打った。


「い、いえ、私は結構です。ありがとうございます」

「遠慮しないでもいいのに」

「いえいえ、ご心配には及びません……それではエルウッド様、フィー様、夕食の支度が出来ておりますので」

「ああ、分かった」

「やった! 実は密かに楽しみだったのよね!」

「かしこまりました。では食堂の方へご案内いたします」


 執事が先頭に立って歩き出す。フィーはその後ろをついて行く。エルウッドはフィーの後ろ姿を見ていた。今の彼女は屋敷で用意された白いワンピースを着ている。フィーの美しい真紅の髪がよく映える。


「フィーさん、その服は?」

「あ、似合うでしょ? メイドさんが着せてくれたんだけど、これもエルウッドが指示してくれたものでしょ? ありがとね」


 フィーはくるりと回ってみせる。スカートがふわりと広がった。エルウッドは立ち止まって彼女をじっくりと眺める。

 元々、整った顔立ちをしているとは思っていた。けれど今のフィーは美しさに磨きがかかったようだ。


「どうかした?」

「あ、いや、何でもありません」

「ふーん? まあいいわ」


 エルウッドは胸が高鳴るのを感じていた。そんな内心を悟られまいと、慌てて目を逸らして前を歩く執事を追いかけた。


「はい、到着しました」

「すごーい!」


 食堂に通されると、フィーは目の前の光景を見て目を丸くする。大きなテーブルの上には所狭しと料理が並べられていた。パンやスープ、サラダなどの軽食から、メインディッシュの肉料理や魚料理まで様々だ。もちろんデザートやアルコールも用意されている。


「こちらが本日のメインディッシュ、鴨の香草焼きになります」

「うわー!」

「魚料理は白身魚のポワレです」

「おいしそう!」

「デザートはフルーツタルトでございます。紅茶のセットになっておりまして」

「すごーい!」

「最後にこちらが、お二人の為に特別に用意させて頂いたワインでございます」

「やったあ! ワイン大好き!」

「どうぞ心ゆくまでお召し上がりください。お代わりもありますから、どんどん食べてくださいね」


 執事がテキパキと給仕をする。メニューの説明を受けながら、フィーはキラキラと瞳を輝かせると感嘆の声を上げ続けた。


「なにこれなにこれ!? すごい豪華じゃない!!」

「今宵はフィー様の歓迎会も兼ねておりますので、厨房のシェフに腕を奮わせました」

「すごいすごい! はー、幸せすぎる……」


 フィーは胸の前で手を組んで、感激していた。喜んで貰えたみたいで良かった。エルウッドは胸を撫で下ろすと、フィーと共に席につき、食事を始めた。

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