第12話
そういえば、とルネを攫ったあの夜を思い返す。
リリィはディストールが来てから、ミカエルの名前を呼ばなかった。アルベルトもだ。あの2人が今もミカエルのことを黙っているとしたら、未だにミカエルに何の知らせも来ないことにも納得がいく。そろそろ何らかの動きがこちらにきてもおかしくないと思っていたところに、予想に反しての任務命令が下った。
あの2人はまだこちらの味方についている。
「ルネ」
「はい」
「仕事が入った。私はここから隣国を通ってとある村まで行かねばならない。魔物の討伐命令だ」
途端にルネは不安そうに俯く。
「危険な任務なのですか?」
「分からない。ギルドに行ってみないと何とも言えないな。だが私に依頼が来るということは、私じゃなければ倒せない相手だと言うことだ」
「そうですよね」
ミカエルは先日、ルネに自分が魔法使いの最高位であるSSS級であることを伝えていた。
その時のルネの反応は、典型的なびっくり仰天といった感じで、呆気に取られ持っていた物を全て床に落としていた。
「あ、あのぅ」
急にもじもじと胸の前で指を絡ませる仕草をするルネ。何か言いたげな視線をミカエルに向けた。
「どうした?」
「私も、行っては駄目ですか」
「駄目なわけがないだろう」
迷わずそう答えると、彼女は花が咲くような笑みを見せた。
「ありがとうございます」
「だが勝手に行動はしないこと。私の手の届くところにいてくれ」
「はい。お願いします」
「うむ。行こう、まずは任務の詳細を受け取らなくてはな」
ミカエルはルネの手を引く。イリス国には戻れない。今の姿のままでは。
精霊のお茶会は今日も大盛況だ。大柄の男や魔法の杖を持った人達が我先にと仕事を求めてここを訪れる。
その中に、黒い猫と、茶色の髪を三つ編みにした少女がやってきた。
前に対応してもらった受付は避け別の受付の女に身分証を渡し、任務の依頼書を受け取る。
「はい、こちらが今回の依頼書になります。魔物の討伐ですね。危険ランクの高い魔物が現れるとの情報が入っております」
「そのようだな」
女が操作する端末から依頼書の内容を一緒に確認する黒猫。
「この村に行けばいいんだな」
「そうですね。こちらに行っていただいて、村人からさらなる詳細を聞いてください。辺りの魔物が一掃され村の安全が確保された時点で任務完了となります」
「分かった」
「魔物の探索に必要な魔法道具の貸し出しも行っていますが、利用されますか?」
「いや、自分で持っているものを使うから必要ない」
女はにこっと笑ってかしこまりましたと答える。
「では依頼書の転送は完了しておりますのでこちらお返ししますね」
黒猫は女から身分証を受け取った。女は黒猫の後ろで一言も話さず縮こまっている少女に視線を向けた。
「お嬢さん、お嬢さんも一緒に行かれるのですか?」
「え?あ、えと、は…は、い」
女はまたにこっと微笑んだ。
「お気を付けて行ってきてくださいね」
「あ、ありがとうございます…」
黒猫と少女はそのまま人混みをすり抜けて出て行った。2人は終始仲良く手をつないでいた。
女はその様子を、2人が人混みに紛れて見えなくなるまで見送った。
「微笑ましいなぁ。なんだか付き合いたての恋人みたい」
女はふっと笑って、次にやってきた魔法使いの男の対応を進めた。
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