第11話

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 ルネとミカエルは家の外にいた。

 ミカエルがルネの髪を整えてくれるというのだ。今は昼過ぎ。朝にとんでもない醜態を晒してしまったルネはあの後、終始恥ずかしそうに手の甲で口元を押さえてミカエルに涙声で謝った。ミカエルはルネがそれを口にする度に、首を振っていたが、彼に面倒だと思われてないか心配でたまらない。そんなふうにベッドの上で逡巡していた時、彼が髪を切ってあげると言ってきたのだ。


(ミカエル様、人の髪を切ったことあるのかしら)


 今のルネの髪は腰下まで伸びており、その1部、顔の左辺りの髪だけが無造作に切り落とされ、頬骨の辺りまで無くなってしまっている状態だ。

 願ってもない申し出だったが、同時に一抹の不安を覚える。だがそれは結果的に杞憂に終わった。

 彼は正真正銘なんでも出来る猫だった。

 ルネの乱れた髪の毛は、綺麗に整えられた。ミカエルは切り終わるまでルネを正面から見つめる位置に居て、風魔法の応用で髪を切ってくれた。

 腰下まであったルネの長い髪は、この2人の生活には不便すぎるということで、顔の顎下まで切られた。ミカエルはルネに了承を得てから切っていたが、あの不敵な笑みで「その方が似合うと思うのだが」と言われて断れる人間などいるのだろうかと思ってしまう。

 だがルネも自分で長い髪の手入れをするのは億劫だったのでちょうど良かった。

 顔周りは短く切られてしまったところを少し整え、右側も同じくらいの長さまで切った。

 今まで顔周りだけ長さが違うという髪型をした事がなかったので、新鮮な気持ちと一緒に落ち着かない感じがする。屋敷にいた時は、顔周りの髪を耳下まで垂らして後ろに結ってくれていたので、こうして髪の先が顔にあたる感覚も初めてだ。

 ミカエルは切る度に「上手く出来た」とか「似合っている」とか言っていて、ルネはその度に「ありがとうございます」と顔を赤らめていた。

 最後に鏡をどこからか出してきたミカエルは、ルネにこれで大丈夫か聞いて、彼女は頷いた。

 前よりも子供っぽく見えるが、自分の容姿や体型にあっていた為、嬉しいような悲しいような複雑な感情を抱いた。だが前よりも似合っているのは確実だった。



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 それからしばらく、2人は穏やかに過ごした。ミカエルについて行って森の花畑を見たり、ミカエルがどこからか買ってくる料理に舌鼓を打ったり、変装してルネの服を買いに行ったりした。ついでにミカエルの服も一緒に買った。彼はいつも汚れた外套を着ていたから、ルネが誘ったのだ。「黒いものなら目立たないし、今のものよりもきっと似合うから」と言って。

 2人のつかの間の休日は、2週間余り続いた。その間にミカエルは自分の家をした。魔法で部屋を1つ増やし、キッチンと清潔な風呂場とトイレ、洗面所も広くした。もちろん増やした部屋はルネの部屋だ。大きめのクローゼットを置けるくらい広く作った。屋敷にいたときのルネの部屋の3分の1もないくらいの広さだったが、それでも今のルネにはぴったりだ。買った服もクローゼットにしっかり入る。


「木のいい香りがしますね、ミカエル様。素敵ですわ」

「気に入ったか?」

「ええ。とっても!ありがとうございます」


 ミカエルが満足げに頷く。耳飾りのペリドットがチラと揺れて光った。


(私も、何か着けようかしら)


 ルネはミカエルの耳飾りを見ながら、自身の耳たぶに触れる。あまり着飾る方ではないルネだったが、何故かミカエルを見ていると何か身に付けたくなる衝動がたまに来る。


「む」


 ふと、ミカエルが着ていた黒いシャツの下から、カードを取り出した。


「ミカエル様、それは?」

「私の身分証だ。魔法石が埋め込まれていて私が何者なのか確認するときに使う。位置情報なんかは探知されないから、念のため持っていたんだが…ふむ」


 ミカエルは何やら考え込んでしまった。その双眸はカードを見ているようで、見ていないようにもとれる。カードの奥の何かを見定めているようだ。


「ミカエル様?どうかしましか?」

「いや。任務が入った」

「え?今ですか?」

「ああ。魔物の討伐任務だ。だがどうして。私がルネを攫った犯人だと国はまだ知らないのか?」

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