第8話
魔法を使う時、いつも思うのは、父の言葉だった。
『お前は初代の生まれ変わりだ。その内に秘めた膨大な魔力を使いこなせるようになれば、国を支配することだって出来るんだ。さあ、やりなさい。お前のこの手に、家と、国の未来がかかっている』
まるで呪いのようだと初めて聞いた時に思った。恐ろしくて震えてしまったのを今でも覚えている。それからだ。魔法を使うことが怖くなってしまったのは。
「どうして、それを」
「理由は2つだ、まず魔法を発動するとき、君の体は委縮していたこと。次に内に秘める魔力量に対して、放たれた魔法の魔力が少なすぎること」
「それは、私に才能がないから」
「才能ではない。そもそも魔法が下手というのは、的外れな場所に的外れな魔法を繰り出して、自分が思った効果を得られないことを言うんだ。君の家庭教師は本当にまじめに君に魔法を教えていたのか?君の場合は、魔法が下手なのではなく、魔力を無意識に抑え込んでしまうことでごく低級の魔法しか発動できていない、いわば極端に魔力が少ない人間と同じ状態になってしまっているんだ。その場合、君が魔力を意識的に開放すれば、爆発的に上達する。私が保証しよう。君は強い」
「ミカエル様……」
そんな風に考えたことは無かった。いつも自分に才能がないことを悔やんでいたのに、目の前の猫はそうではないと言う。
ルネは一瞬目を輝かせて、でもすぐに俯いた
「怖いんです、ミカエル様。私、自分の魔力量が本当に初代当主と同じだけあるのだとしたら、いつかその魔力に自分が支配されそうで、怖い。ミカエル様の言っている通り、私は自分で魔力を制限してしまっていたのかもしれません。でも、そうでもしないと私は私が何をしてしまうか分からなくて、怖いのです」
迷い子のように涙をこらえるルネは、そう打ち明けた。だが、ミカエルはあくまでも淡々と言ってのけた。
「大丈夫だ。私が隣にいるだろう?」
「え?」
「君の魔力量が見えると私は言ったな。君が暴走しても私には止められるだけの力がある。問題無い」
「ミカエル様…本当に?」
「本当だ。こんなところで嘘をついても、私には何の得もない」
それはそうだ。ミカエルがルネを利用して世界征服でも考えているような馬鹿な悪者でない限りは、その言葉に偽りなど入る隙が無い。それくらい、今のルネにも分かる。でも、そしたら本当に、自分には未知の力があるということになる。魔力を制限していることとは別の問題で信じられない。
「ルネ、君さえよければ、私が魔法の正しい使い方を教えよう。君が強くなりたいのならば、私は知識を惜しまずにすべて君に与える。これは強要ではない。君が嫌なら私は金輪際君にこの話はしないし、もちろん失望もしない。ただ、君がどうしたいか、それ次第だ」
ミカエルはいつもルネに選択権を与えてくれる。これは父の下にいたときには無かった経験だ。どうしてよいか答えを出せずに、ルネは一歩身を引いてしまう。その様子にミカエルはまた一言、助言を与えた。
「ただ、私は君と一緒に、魔法で空を飛んでみたい。君と一緒だったらきっと、いや確実に美しい景色に出会える。そんな気がするんだ」
それは、何の魔力もこもっていないただの言葉だ。だが、何かの本で読んだ。言葉には魔力が込められていると。ミカエルの今の言葉は、まさにそれだと思った。
目の前がきらきらと光って見える。世界がまるでその姿を変えてしまったように、一瞬にして異世界に来てしまったように。
「わ、私も。…私もミカエル様と一緒に、いろいろな景色を見に行きたいですわ。2人隣で、世界を渡る鳥のように、たくさんの景色を…!」
そう言ってみせたルネの双眸にはもう迷いは無かった。ミカエルはにやりとペリドットの瞳を三日月型に細めて笑った。
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