第七章 琥珀
第1話
いまだ夏の暑さが衰えない今日この頃、右手に紙袋をぶら下げている私は左手で中島の家の戸を叩いた。この紙袋の中身は父親が仕事で遠出した際に、中島にと買ってきたクッキーの缶詰だ。
実は私は中島と上用饅頭を作った日に、両親の分としていくつか饅頭を持ち帰った。
とてもおいしかったから、そのお礼だと父親はこのクッキーを中島に届けるように私に言ったのだ。
「こんにちはー、中島さん起きてますか?」
「起きてまーす。今、手を離せないから勝手に上がってきていいよ」
ノックをしたあと、声をかけると家の中から中島の返事が返ってきた。今日はちゃんと起きてるんだなと感心しながら、言われた通り家に上がらせてもらう。
「やぁ、実緒ちゃん。見て、これ綺麗にできたと思わない?」
玄関を上がり、居間の襖を開けると中島が笑顔でなにかを手に乗せて問いかけてきた。
「なんですか、これ。キーホルダー?」
覗き込んでみると、そこには透明感のある青色の中にキラキラとしたラメの混じったかわいらしい丸いキーホルダーがあった。
「これはね、レジンっていう液体を固めて作ったんだよ。初めてにしてはうまくできたと自負しています」
「えっ、中島さんが作ったんですか。すごい!」
「へへ」
褒められて照れる中島の後ろの机にはたくさんの物が置かれていた。色々と置かれているが、箱に仕分けられて入れられているので散らかってはいない。
「その後ろの荷物はなんですか? この家にそんなものありましたっけ?」
「ああ、これは
そう言って中島は箱の中身を見せてくれる。
色のラベルが貼られたレジンという液体が入っている箱、中に入れる装飾品の入った箱など数は多い。
「もしよかったら実緒ちゃんも作ってみない?」
「いいんですか? やってみたいです!」
中島の誘いに快く頷く。しかしレジンを使ったキーホルダー作りにチャレンジしようとしたところで、右手の紙袋の存在を思い出した。
「ああ、そうだ。これを中島さんに渡してくれって」
「え? なにこれ」
「クッキーの詰め合わせです。父がこのまえの上用饅頭のお礼にって」
「わぁ、ありがとう! 嬉しいな」
中島に紙袋を渡す。甘いものが好きな中島は喜んで紙袋を受け取った。
クッキーの入った紙袋を邪魔にならないように台所に移動させてからキーホルダー作りを始める。
「まずは好きな色を選んでみよう」
「いろんな色がありますね。ん? このクリアブルーとミルキーブルーってなにがちがうんですか?」
クリアレッド、クリアブルーなどたくさんの色があり、どれにしようか迷う。
とりあえずどんな色があるか目を通してみると、同じ色でもクリアとミルキーの二種類あることに気づき、首を傾げた。
「ああ、クリアブルーはさっき見せたキーホルダーで使った色で、透明感のある青なんだ。ミルキーブルーは白っぽく濁っている青だね」
「なるほど、中島さんが作ったものみたいに透けた色になるんですね。私もクリアの色にします」
クリアタイプのものを使うことを決めて、再度クリアタイプの色を見ていく。
ミルキータイプとクリアタイプは別々の箱に入れられていて探しやすい。おそらく昭子がレジンの仕分けをしたのだろうが、種類別に丁寧に分けられているのを見ると、彼女が几帳面な性格なのだとよくわかる。
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