第7話

「あれ、マシロちゃんにお客さんか?」


 トーマスの姿が見えなくなったところでトヨに声をかけられる。

 自転車に乗っていることと、服装から察するに畑から帰ってきたところのようだ。


「はい、もう帰っちゃいましたけど」

「そうだ、中島さん。トヨさんにお饅頭を渡しましょう」

「ああ、そうだね!」


 私の言葉で思い出したように、中島が慌てて台所に向かった。


「饅頭?」

「トヨさんからもらったあんこを使って、私と中島さんとで饅頭を作ったんですよ」

「ああ、あれか。そうか、みーちゃんとマシロちゃんの手作りか。それは食べるのが楽しみだなぁ」

「お待たせしました! 冷めてますけど、おいしいですよ!」


 微笑むトヨと話をしていると中島が上用饅頭を持って走ってきた。


「ありがとな。上用饅頭なんて、作るの大変だっただろう?」

「芋と砂糖をすり合わせるのが一番きつかったですね」

「あれは結構腕が痛くなったね」


 中島と苦笑いを浮かべる。本当にあの工程は力が必要できつかったのだ。


「饅頭のお礼に夕食、食べていくか?」

「いいんですか⁉︎」


 トヨの言葉に中島はこくこくと頷いた。相変わらず中島の食いつきがすごい。相当トヨの作るご飯が好きらしい。


「私もお邪魔しようかな」

「今日から大人数でご飯だからな。マシロちゃんとみーちゃんがくるならもっと張り切るしかないな」


 トヨは私と中島の返事を聞いて、気合を入れて腕まくりをした。


「大人数?」

「ああ、今日から昭子たちと一緒に暮らすんだ。言ってなかったか?」

「私は昭子さんから聞きました。今日からなんですね」

「ああ、僕も実緒ちゃんから聞いたな」


 三人でトヨの家に上がり、夕食の準備を手伝おうとすると、


「ただいまー!」


 玄関から元気な声が聞こえてきた。


「隆史、帰ったらまずは手を洗いましょう?」

「はぁい」


 続いて昭子の声も聞こえる。二人で出かけていたようだ。ちゃんと二人の時間も取れるようになったようでなによりだ。


「お母さん、帰りに頼まれてたお豆腐買ってきたわよって、あら?」


 片手にスーパーの袋をぶら下げた昭子が部屋に入ってきて私と中島の存在に気づき動きが止まる。


「ばぁちゃん、ただいま! あっ、みーちゃんがいる! あと麻白も!」

「あ、僕はおまけみたいな扱いなんだ」


 手を洗ってきた隆史が少し遅れて部屋に入ってくる。


「なになに、みーちゃんも一緒にご飯食べるの?」

「うん、お饅頭のお礼にってトヨさんに誘ってもらったんだ」


 そう答えると隆史は嬉しそうに笑った。


「お饅頭?」

「ああ、はい。トヨさんにもらったあんこを使って上用饅頭を作ったんです」

「まぁ、すごい!」


 昭子は手を叩いて褒めてくれた。


「みーちゃん、麻白! 一緒に遊ぼ!」

「あ、でもお手伝いしないと」

「いいのよ。私が手伝うから、実緒ちゃんたちは隆史の相手をしてあげて」

「わかりました」


 スーパーの袋を持ったまま昭子は台所に向かった。

 私と中島は昭子に頼まれた通り隆史の遊び相手をする。


「トランプしよ!」


 隆史は楽しそうに自身と中島、私の前に手札を配っていく。


「ふふ」

「中島さんって子供好きなんですか?」


 その様子を中島が微笑ましそうに見ていたので気になって尋ねる。


「うん、子供って無邪気だし、楽しそうで見てるこっちも笑顔になるよね」


 そう言って中島はへらりと笑った。

 上用饅頭を作っていたときの中島も無邪気な子供みたいだったとは思うが言わないでおこう。


「はい、みーちゃん引いて!」

「うん」


 隆史に促されて隆史の手札からカードを一枚引く。


「げっ」


 ジョーカーだった。

 隆史は自身の手札からジョーカーが消えて満足そうに笑っている。


「ん? これなに?」


 隆史がふと手札から目を逸らし、机の上に置かれた上用饅頭に目線を向けた。


「ああ、今日実緒ちゃんと一緒に作ったやつだよ。トヨさんがここに置いたんだろうね」

「ええ、いいな。一個食べちゃお」

「あっ、こら、ご飯食べれなくなるよ」


 隆史は中島のカードを引くと饅頭に手を伸ばし、ひとつ口の中に放り込んだ。


「うっめぇ! これみーちゃんと麻白が作ったの? すげぇ!」


 隆史はおいしそうに饅頭を食べた。みんなに喜んでもらえて嬉しい。頑張ってすり合わせたかいがあったものだ。

 二個目に手を伸ばそうとした隆史の手を中島が止める。


「これ以上はご飯が食べれなくなるかもしれないからダメだよ。食べるならご飯のあとにしないと」

「ちぇっ!」


 隆史はよほど饅頭を気に入ったのか止められたあともちらちらと視線を向けている。


「あ、そうだ。麻白、お店やったら? ばぁちゃんの駄菓子屋改装してさ!」

「いや、僕は本当にお店をやりたいとは思ってないんだけど」


 トーマスと同じような提案をする隆史の言葉に、中島は困ったように笑った。

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