第5話

「これは京都で撮ったものみたいですね」


 トーマスのカメラには清水寺が写っていた。テレビでよく見る、あの角度から撮られている。

 ぽちぽちと一眼レフの写真を流し見していた中島がある写真で指を止めた。

 どれもこれも観光地で撮った、ただの記念写真に見えるが、中島はううんと首を傾げた。


「トーマスさん、こちらの写真は?」

「あ、それはこの町に来てから撮ったやつ。後ろの水は湖だよ」


中島がトーマスに写真の撮影場所を尋ねた。

 私には湖をバックに古びた小さな祠が写っている、なんの変哲もない写真に見えるが、


「中島さん、なにか視えるんですか?」


 中島の目にはなにかべつのものが見えているのかもしれない。


「いいや。ただ、なにかを感じる。もしかしたら気のせいかもしれないけど」

「オォ、マシロは霊感、ある人?」

「まぁ、はい」


 トーマスの問いに中島は頷く。


「ほかになにか手がかりがあるわけでもないし、ここは自分の直感を信じて、この場所を見に行ってみましょう」

 中島は立ち上がる。みんなでトーマスの案内に従い、写真の撮影場所までやってきた。

「これは……」


 祠を一目見た中島が顔を歪めた。

 写真に写っていた通り古びた祠だ。木造のようだが雨水の影響だろうか、ところどころが腐って脆くなっており、正直なところなにかしらの衝撃を受けると今にも壊れてしまいそうだ。


「わたし、帰れますか?」

「もちろん」


 心配そうなトーマスの問いに中島はしっかりと頷いた。

 どうやらトーマスがこの町に閉じ込められたのはこの祠のせいで間違いないようだ。


「実緒ちゃん、トーマスさんと一緒に家に帰って」

「えっ、でも」

「いいから――見られたく、ないんだ」


 中島は祠を見つめたままそう言った。

 横顔を見るに顔色が悪くて心配だが、ここまで本気で言われてしまってはしかたがない。


「わかりました。トーマスさん、中島さんの家に行きましょう」

「えっ、マシロ置いてきていいの?」


 困惑するトーマスの手を掴み、中島の家に急ぐ。

 決して後ろを振り返らずに。

 振り返ってはいけないと本能が告げていた。

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