第4話
翌日。私と中島は隆史が通う小学校の正門の前にいた。
「どうしてこんなところにきたんです? 不審者だと間違われないか心配なんですけど」
小学校前で佇む二人。もし通行人に不審者と勘違いされて警察に通報でもされればたまったものではない。
「魔法が使えるって言葉は隆史くんのついた嘘とわかったとは言え、放っておくわけにはいかないでしょ? でも隆史くんはもう僕たちに魔法の話はしてくれなさそうだったから、隆史くんのお友達から話を聞けたらいいなって思って」
「それで小学校ですか」
校舎の右隣にグラウンドがありそこから元気の良い声が聞こえてくる。柵越しに中を覗いてみると隆史が所属しているサッカークラブが今日も練習に励んでいた。
「あ、あの子たちに声をかけてみない?」
中島に声をかけられ言われた方を見てみると体育館から数人の男の子たちが出てきて正門のあるこちらに向かって歩いてきていた。
一人はバスケットボールを抱えている。体育館で友人とバスケをしていたようだ。
「あの子たちは隆史くんと同じくらいの体格だから三年生だと思うんだ。友達じゃなかったとしても同じクラスの子かもしれない」
「ああ、なるほど。違う学年の子に声をかけても意味がないですからね」
中島と話しているうちに男の子たちが正門の外に出る。中島は行ってくると言って一人で彼らに話しかけに行ってしまった。
「ねぇ、君たち三年生? 隆史くんって知ってるかな?」
「は、なんだよこいつ」
「やばいやつだ」
男の子たちは急に話しかけてきた中島を不審に思い校舎の方へ逃げようとした。職員室にでも逃げ込む気だろうか。それは正しい判断だと思うが、そんなつもりないのに不審者扱いされるのは困る。
「ご、ごめんね、君たち! だめですよ、中島さん。そんな怪しい声のかけ方は! 私たちはべつに怪しい者ではなくてね、この学校に通う隆史くんの友達なんだ。私が実緒でこっちは中島さん。最近隆史くんの様子がおかしいからお友達から話を聞きたくてここにきたんだ!」
男の子たちと中島の間に入って一息で用件を伝える。誤解を解くのに必死だった。
「あ、隆史の知り合いなの? ん、ってことはお前がみーちゃんか!」
「えっ、私のこと知ってるの?」
どうやら彼らは隆史と知り合いだったようで私の話を聞いて足を止めてくれた。
「隆史から聞いたことあるぜ。大学デビューで茶髪にして失敗した人だろ!」
「隆史くんってば、なんでそんな話を周りに言いふらすかなぁ!」
「大丈夫だって、結構似合ってんじゃん!」
「かわいーと思うぜ!」
思わぬところで私の大学デビュー失敗をいろんな人に知られていることを知り、普通にショックを受けた。
「でもたしかに最近隆史のやつ、様子おかしいよな」
「その話、詳しく聞かせてもらっていいかな」
彼らは隆史の友人で
隆史の同じクラスなのは健斗だけで、教室でも席が近くためよく話す仲だという。
他三人はクラスは違うものの隆史とは昼休みにサッカーをすることが多いそうだ。
「最近はあんまりサッカーしないけどな。なんか話しかけづらくなったっていうか」
「魔法が使える、だっけ。急にそんなことを言い出したんだよ」
「そうそう、クラスでもいつも言ってる」
「俺の教室までわざわざ言いにきたこともあったな」
春人、奏太、健斗、冬矢の順に口を開く。
「いつ頃から言い出したか覚えてる?」
「ええと、たしか一ヶ月前だったと思うぜ」
中島の問いに健斗が答える。
「隆史くんが魔法を使えるって言い出した理由に心当たりはある?」
みんな首を横に振った。健斗たちも隆史が急に変なことを言い出したのに困惑しているらしい。
「……あ、あれは?」
唸っていた春人がなにか思い出したように顔を上げた。
「あれって?」
「実は隆史が犯人扱いされたことがあったんだよ。たしかあのあとからじゃなかったか、隆史の様子がおかしくなったのは」
「ああ、そういやそうかも!」
春人の言葉に健斗が大声を上げる。健斗も知っている話のようだ。
「犯人扱いって、なんのことかな? 犯人だなんてなんだか物騒じゃないか」
「ええとな、俺のクラスの教室の後ろの棚に置いてある花瓶が割れてたことがあったんだよ。それでその花瓶を割ったのは隆史だって言われててさ。結局犯人はクラスの女子だったんだけど、あの事件があったあとから隆史が変なことを言うようになったんだ」
「あ、その話聞いたことあるな。クラス違うから詳しくは知らないけど」
冬矢と奏太が首を傾げた。二人は隆史のクラスと離れており、話を聞き齧った程度しか知らないらしい。
「あれはさ――」
健斗と春人が詳しい話を聞かせてくれた。
ちょうど一ヶ月と一週間ほどまえに隆史と健斗のクラスで教室に置かれていた花瓶が割られているのを朝、生徒たちが登校する前に教室に入った担任の先生が発見した。
先生は朝の会で割った人物は名乗り上げるように言ったそうだ。しかし誰も名乗り上げず、騒ぎを聞いた隣のクラス――春人のクラスの生徒が花瓶が割られた日の前日に隆史が教室から慌てて出て行くのを見たと証言したことにより、花瓶を割った犯人は隆史だと決めつけられてしまった。
もちろん身に覚えのない隆史は否認を続けたが、入学当初に花瓶を割った前科がある隆史の言葉を先生は信じず、一方的に叱りつけたそうだ。
「俺も隆史がやったとは思わなかったけど、先生は俺の話も全然聞いてくれなくてさ。隆史がやってない証拠を探してやりたかったけど、見つけられなかったんだ」
しかしその三日後に隆史のクラスの女の子が、自分が割ったのだと自供した。
クラスメイトが帰った放課後で、一人で教室の後ろに設置されている背面黒板に落書きして遊んでいたときに間違えて腕が触れて落としてしまったらしい。
怒られると思うと怖くなってそのまま逃げるように帰宅し、真実を打ちけられなかったらしいが、なにも悪くない隆史が自分のせいで怒られているのに罪悪感を感じて名乗りあげたそうだ。
「担任の先生は隆史くんが犯人じゃないってわかったあと、どうしたのかな?」
「一応隆史に謝ってた。けど隆史は許してないみたいだったぜ」
この事件があってからしばらくして隆史は嘘をつき始めた。
自分を犯人だと決めつけた先生を困らせてやろうとでも思って虚言を吐くようになったのだろうか。だがもしそうだとしたら昭子にまで嘘を行く必要はないはずだ。
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