第2話
「ちょっと困ったことがあってなぁ」
そう言ってトヨは懐から写真を取り出した。覗き込むとそこには見覚えのある小学生の男の子が写っていた。
「
隆史というのはトヨの孫にあたるサッカーが好きな小学三年生の男の子だ。隆史は祖母であるトヨに懐いており、私もトヨの家で何度か会って一緒に遊んだのでそこそこ懐かれている自信がある。
「さっき
トヨは困ったように眉を下げた。
昭子というのは隆史の母親で、トヨの三番目の娘だ。
一年前に夫である聡を事故で亡くし、シングルマザーとして生活のために毎日働いているという。トヨはシングルマザーになって大変であろう昭子を心配してよく電話をかけているそうだ。
「隆史くんの様子がおかしいって、具体的にはどうおかしいんですか?」
中島も隆史とは面識がある。隆史の人っ懐こい性格もあり、中島にもかなり懐いていた。
「魔法が使えるようになった、って周りに言いふらしているらしい」
「ま、魔法ですか」
想像の斜め上の回答に思わず口を挟んでしまった。
「仕事で疲れて帰ってきたら隆史が魔法を使えるからと言って昭子の手を引いて無理矢理外に連れ出そうとするそうなんだ」
魔法という単語を聞いてトヨは中島に相談しようと思ったらしい。
「電話だけじゃなくて昭子と直接話したほうがいいとは思ってるんだがなぁ、昭子はずっと忙しそうにしていてなかなか時間が合わなくてな」
トヨがため息をつく。
昭子は昼はスーパーのレジ打ちにコンビニの夜勤で、毎日のように働いており忙しくてまともに話をする時間がないらしい。
「ちょうど明日隆史を家で預かることになったから、隆史と話をしようと思ってな。よかったらマシロちゃんにもその話し合いに同席して欲しくて」
「僕はかまいませんよ。実緒ちゃんはどうする?」
「えっ、私ですか? お邪魔になりません?」
急に話を振られて動揺する。トヨを見ると首を振って、
「私はかまわんさ。むしろ実緒ちゃんがいると隆史も喜ぶだろうな」
そう言った。
「昔はそんな変なことを言う子じゃなかったのに、急に変わっちまうもんだなぁ」
トヨが呻いた。
私が知っている隆史はわんぱくな子供でサッカーや外遊びが大好きだった。少しわがままなところはあるがわざと誰かを困らせたり嘘をつくような人間ではなかったはずだ。
「隆史くんの急な変化は幽霊が関わっていると思ったんですね」
「ああ、そうなんじゃないかと思ってな」
私の問いにトヨが頷く。
中島を見ると黙って心配そうに顔を歪めていた。
「どうかしたんですか?」
「えっ、うん。魔法が使えるなんて隆史くんのついた嘘だったらいいなって思って。魔法の対処法なんて知らないからね、僕」
中島が祓えるのは元々人間の、亡くなった誰かの強い思いが引き起こす心霊現象だけだ。魔法は心霊現象とは違うので対処できない可能性があるらしい。
「そもそも魔法なんて本当にあるのかなぁ。まぁ、幽霊がいるなら魔法使いがいてもおかしくないのかな……」
中島が呟いた。
つい常識では理解できないことは中島に頼ってしまうが、中島だって全知全能ではない。
明日の五時にトヨの家に集合する約束をし、その日は家に帰った。
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