第五章 この街のみんなと
第二十七話 占い小屋大盛況!
占い小屋を開いてはや数週間。
今日も占い小屋は暇だ……と、言いたいところなのだが。
「ありがとうございます! これで店の方向性も固まりそうです」
「いえいえ。どうか幸運がありますよう、お祈りしております。では次の方ー」
「わー! ようやく順番回ってきたよ~」
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。ではまずはシステムについてお話を……」
暇だ暇だ、と嘆いていたのは数日前まで。
ここのところお店は大忙し、占い小屋のある路地には行列が出来るくらいに大盛況だ。
どうもラステルさんの一件後、占い小屋の知名度が上がったようなのだ。
今も好調な様子のラステルさんのお店。確かに私が問題を解決に一役買ったのかもしれないが、それを多くの人が目撃していたわけでも、まして占いをした場面をみんなに披露していたわけでもない。それなのにどうしてなのかと思っていたが……その原因はすぐに分かった。
「という感じですね」
「うわーすごい当たってる! やっぱりあのヴィヴィオさんが絶賛するわけだ!」
そう、ヴィヴィオさんである。
あの事件後、インプレッス家の長女でもあるヴィヴィオさんが度々やってきて常連にもなったのだが、どうもその時のことを自身のお店でかなり話題にしているらしい。
なんでも――
「ビックリするぐらい、すごくよく当たるんですよ~」
とか。
「占いでお店の配置を換えたら~すごく調子が良くて~」
とか。
「占ってもらうと~なんだか幸せな気分になって~将来の不安とかも、消えてくれるんです~」
などなど。
結構怪しめな口コミを絶賛しながら広めてくれているらしい。
ヴィヴィオさんの服屋はもともと若い女性客がメイン。そういう方々にその手の話題が好かれやすいのもあってか、私の占い小屋はたちまち大人気となったわけだ。
「では次の方どうぞ!」
そんなヴィヴィオさんについて、ちょっと意外な出来事があった。
ラステルさんの一件でも持ち上がった、インプレッス商会の後継者問題についてだ。
長男のレックスさんは元からなるつもりもなく、末のラステルさんも目指す理由がなくなり、その座が改めてどうなるのか、と一時期話題にもなったのだが……それはあっけなく解決してしまった。
そう、ヴィヴィオさんである。
ヴィヴィオさんが、インプレッス商会の後継者として正式に決まったのだ。
レックスさんもラステルさんも、その座につくことに興味を無くしていたし、同じようにヴィヴィオさんも興味はないと誰もが思い込んでいた。
いや、実際私もそうだったよ。だってあんなホワホワした性格の彼女だよ? 地位とか名誉とかそういうのとは無縁で、高原とかでお茶を啜ってるイメージしかないじゃない。数回会っただけの私だって簡単に想像できちゃうくらい、マイペースというかなんというか……。
でも実際は……二人の隙を突いて、彼女は後継者の座についたのだ。
それもなし崩し的に選ばれたのではない、実力でもってもぎ取ったのである。
これにはレックスさんもラステルさんも、驚きを隠せなかったみたいで、唖然としていたのをよく覚えている。
なんで私が、ヴィヴィさんが実力で奪ったのかを知っているのかって?
それは、もちろん……
「私がインプレッス商会の後継者になるために~どうすればいいか、占って欲しいんです~」
占ったのである。それも初めてヴィヴィオさんが来店した時に。
内容を聞かされた時、さすがに私も冷や汗が流れたよ。
その時のお礼に、かなりいい生地で作られた顔の隠れるカーテンをもらったけど……これホントにお礼だよね? 賄賂とかそういうのとか、違うよね?
あんなのほほーんと日向ぼっこするウサギみたいな人が、まさか心中で虎視眈々と獲物を狙っていたとは……。
その時の話は、またどこかで……。
「ねぇ、まだー?」
「もう一時間くらい並んでるんですけどー」
「申し訳ありません。もう少々お待ちください」
と、まあそんなこんながあって、お店は今や大忙し。
私としては、お客が増えて実入りも良くなってきたので、願ったり叶ったりではあるけれど、さすがに捌くのが難しくなってきたな。
人を雇ってお客の対応をさせるか、それとも予約制にでもしてお客の数を制限しないと、変な騒動が起きてウィル達騎士団の方々に目をつけられかねない。
レックスさんのお店で無茶した手前、これ以上ウィルたちに迷惑をかけるわけにもいかないしな。
迷惑と言えば、そう……あの話。ヴェールヌイ家のことだ。
ビリアンがこの街に事業を広めにやってきたと、言っていたが……どうもその商売が危ういらしい。
先日、切り株亭で常連の商人さんと話す機会があったのだが、その人曰く――
「ま、ヴェールヌイ家のあれは自業自得だろ」
とのこと。
ヴェールヌイ家という貴族の立場を使い、強引に事業を広めたり、ライバル店を潰すようなことをしていたのは前々から聞いてはいた。
多少の無礼はあっても相手は貴族。金払いだけはいいだろう、と甘い汁を吸おうとしてた人達も支払いが滞ることが増え、今ではほとんどが取引をしていない。
あげくの果てに、どうも非合法的な商売にも手を出していたようで、借金取りやらなにやらに追われる始末。
今ではこの街での商売どころか、ヴェールヌイ家そのものも危うくなるほどだ。自業自得と言われるのも当然なくらい、無茶な行いだ。
ビリアンの転機も、元を正せば私の占い。それが招いた結果とも言えるだろう。
しかし彼は、その占いを信じはしなかった。そして私に婚約破棄を言い渡し追放。今へと至る。
無論、占いを信じなかったからと言って、必ず悪い結果が訪れるわけではない。私の占いにそんな影響力なんてものはないし。
ただ……恐らくビリアンは占いを意識している。
屋敷で占いをした時も、大声で叫び否定し、ついには私と婚約を破棄し追放するまで至った。
でも占いを否定するということは同時に、それを意識していることと変わらない。意識しているからこそそれを覆したくなって拒絶する。躍起になって無茶もする。
その結果が今の状況だ。
占いを信じる信じないは自由だ。でも占いの結果を意識している時点で、なんらかの影響は受けてしまうもの。否定することと、気にしないのは全く別なことなのだ。
彼らが今後どうなるのか。元婚約者としては多少気にはなるところではあるけれど、それでも、もう私がどうこうできることはない。
私が今できること、それは――
「お待たせしました、占い小屋へようこそ」
目の前のお客さんを占うことだけだ。
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