第四章 雑貨屋さんと三兄弟
第十五話 占い小屋、暇です
「ふぅ……」
椅子に座りながら、高くもない天井を眺めてみる。
今日の占い小屋は実に静かだ。
なんてったって、お客がいないのだから。
「暇ねぇ」
無事開店はできたけど、まだまだ人気は無いに等しい。というか、この街の人達に認知されているのかも怪しいところ。
そんなわけで、昼食を終えた昼下がりは暇な事が……いやむしろ一日通して暇な時間の方が多いな、うん。
お客が入らないという事は、お金も入らない。お金が入らないということは生活もできない。
意外とピンチな状況。それは理解しているけれど。
「暇だけど……いいわねこういうのも」
実のところそんなに悪い気はしていない。むしろ晴れやかな気分だ。
占い師。
現世の頃、夢に見ていた仕事、なりたいと思い描いた職業。
生活のため、生きるためと理由をつけて、ただただ働いて働いて、そしてついには命を落とすことになった現世の私。
あの時の私は夢と現実を比べて、現実を取った……ううん違う、夢を捨てたんだ。
現実に向き合う振りをして、自分の本心から目を背けた。それがあの結果だったのだろう。
でも、生まれ変わったこの世界で、私は占い師になった。
生活は決して豊かではない。それでもやりたちことをやれているのは、占いで誰かに喜ばれるのは――本当に嬉しいことだと思う。
「ま、食いっぱぐれるのは困るけど」
開店して早一週間。今のところ、多くて二、三時間に一人の割合、とっいったところか。まあ占いなんて普段の生活に必須な物じゃないし、こんなものよ。
「やっほー、マリーちゃん!」
と、元気よくテントの幕を開けて入ってきたのは、切り株亭の看板娘、キリエちゃんだ。
「あらキリエちゃん。いらっしゃい」
占い小屋を開店してから今のところ一番の常連さんと言っていいだろう。
度々お店にやってきてくれて、占いを頼む日もあれば、ただおしゃべりをしにくるだけの時もある。
どうやら今日は、占いって感じではなさそうだ。
「お店の様子どんな感じかなと思ってきたんだけど」
広くもない天幕の中を見渡し一言。
「まあまあ、な感じだね」
さすがは切り株亭の看板娘。
見事なまでのお世辞だ。
「切り株亭はいいの?」
「ちょっと時間できたから、街へ散策」
「そっか」
「ねぇねぇマリーちゃんも行かない?」
「私も?」
「新しくできた雑貨屋さん、すごくオシャレなんだよ」
「うーん……行きたいけど」
お店あるからなぁ、どうしよう。
「いいじゃんいいじゃん。どうせお客来ないんだし」
ひ、酷い言われようだ……。
でも、私の手を掴んでブラブラと子供みたいに駄々をこねる姿が、なんだか妹みたいなんだよな。
こんなかわいいことされちゃうと、ねぇ。
「しょうがないなぁ……」
たまには羽を伸ばすのも悪くない。こういう風に気分で休めるのも、個人事業主の特権だ。
……まあ、あとあと苦しくもなるんだろうけど。
「決まり! ほら早く行こ!」
「ま、待ってお店閉めないと」
キリエちゃんに引っ張られながら、なんとか休業の看板をかけられたのは、私なりにファインプレーだったな。
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