幕間 その理由にはウラがある?
占い師をやる。
そう決めてから、実際に動き出しはじめたある日のことだ。
「手伝ってくれてありがとうね、ウィル」
今日は占い師を始めるための買いだしだ。
みんなから色々ともらったりしたけれど、それでも足りないものは自分で用意するしかない。でも、やると決めた以上は準備は万全にしないと。
ウィルはその手伝いに付き合ってくれて、さっきまで両手にいくつかの荷物を抱え、運んでくれていた。
「支えるとは言ったが……まさか荷物持ちとはな」
「ご、ごめんね……」
先程、下宿先に荷物を運び終えたけど、さすがのウィルも大変だっただろう。
むしろそんな大変なことに付き合ってくれたのだ、せめて切り株亭でなにかお礼をしないとな。
「って、あれ……?」
私はふと、足を止めた。
今歩いている道を普段あまり通らない。なにせここは歓楽街のど真ん中、下宿先から切り株亭へ向かうのに近道とはいえ、今が昼間でしかもウィルが隣を一緒に歩いてくれないのなら、まず近寄ることだってしないだろう。
だからというわけではないが、周囲の光景は見慣れない珍しさもあるのだけれど……目に映った光景はちょっと不思議に見えたのだ。
「どうした、マリー?」
隣を歩いていたウィルも不思議そうに尋ねてくる。
「ねぇ、ウィル……あれって……」
私が恐る恐る指を差す先、通りから少し外れた路地のお店に見慣れた顔があったのだ。
「ああ。あそこにいるのはジュリアさ……え?」
そう、ジュリアさんだ。
団長との関係も良好な、あのジュリアさんが店先に居る。
それは別におかしいことじゃない。
奇妙に思ったのは……そこで団長とも、お兄さんのダニーさんとも違う見慣れぬ男性と喋っている姿があるのだ
「誰だ、あの人……?」
見てくれは普通の中年男性。でもちょっと怖そうな雰囲気があって、なんというか堅気の人とは違う感じがする。
「ねぇウィル、ちょっと気にならない……?」
「え? そ、それは……」
先日のやりとりで、ジュリアさんが姿を消したのは、ただ帰省していただけだったことは分かった。
でも、だからといって彼女の気持ちまでは分かったわけではない。彼女は娼館で働く娼婦。多くの男性を相手にしてきたであろう彼女が、本当に団長のことを慕っているのかまではハッキリしていないのだ。
「ちょっと二人の話を聞いてみよう」
「おいおい……」
そうして私達は卑しくも、路地の影から二人の様子を伺うことに。
「いやー長い間留守にしちゃってゴメンね~」
「まったく……結婚式に出るから帰省させて、なんて突然言い出して……うちの店で成績上げてるお前だから許されたんだから覚えておけよ」
「もちのロンよ、てんちょ~」
もしかしてこの男の人、ジュリアさんの働いている娼館の店長さんなのか。
良かった。もしかして隠れて付き合ってる人でもいたらどうしようか思った。もしそうだったら、今度こそ団長さんの脳が焼かれるところだった……。
「騎士団の団長さん、お前も珍しく気に入ってるんだろ? 貴族のお偉いさまなら落としてくれる金も大きいだろ」
「ん~そういうのとはちょっと違うんだよね」
「珍しいな。お前がそういう風な目で見るなんて」
「あの人はなんか~一緒に居ると安心するって言うか、なんていうか~えへへ」
「おいおい本気か?」
私は思わず、ウィルと顔を見合わせていた。
「ねぇ、ウィル。これってもしかして……!」
「あ、ああ……」
もしかして……二人は両思いなのでは?
一緒に買い物に行ったり、食事をしたりって話は聞いてたけど、どこかで、団長さんの一方的な勘違いが、もしくは営業的なデートで思っていたんだけれど……。
これはもしや、本当に脈があるのでは!?
「伝令を、いや早馬だ、早馬を出してすぐに団長へ報告に!」
「おお、お、落ち着いてウィル!」
慌てるウィルを宥めていると。
「まあ、ほどほどにな……ところでジュリア」
「ん? なに~?」
「お前が帰省していること、どうして誰にも話さなかったんだ?」
そうだ。
言われてみれば、その謎がまだ残っていた。
「おかげで常連の客から何度も問い詰められたんだぞ」
「ゴメンて、てんちょ~」
「特に騎士団の団長、あの人とんでもない剣幕で尋ねてきて、取り調べされてるのかと思ったぞ」
「あはは、ウケる」
お店側が黙っていたわけじゃない?
結婚式に出るだけであれば、なにも隠す必要はなかっただろう。まして団長さんのことが好きならなおさらだ。
聞いた感じ話しそびれたわけでもなさそうだし、どうして秘密にしてたんだろう。
「別に難しい理由じゃないよ」
と、あっけらかんと笑いながらジュリアさんが話し出す。
「だって~そうやって秘密にしておけば、私のこと考えてソワソワするじゃん?」
ん?
それって、まさか……?
「そうやってソワソワしてるところに私が帰ってくれば~もう燃え上がり間違いなしっしょ」
け、けけけけ計算だぁぁぁぁぁ!?
とんでもない。
「……マジかよ。女って恐ろしいな」
「あはは~ウケる」
などと笑い合いながら、二人はお店の中へと消えていった。
それを黙って見ていた、私とウィル
「……………………」
お互い黙って目を合わせていた。
帰省していたことを誰にも伝えようとしていなかった理由が、まさかあんな理由とは。しかもそれに、見事に団長さんも引っかかっているとは。
二人が両思いなのは間違いない。
でも、だとしても……私とウィルは知らなくていいことを、知ってしまった気がする。
「ウィ、ウィル……」
「あ、ああ……」
私達は頷き合う。
考えることは一緒だった。
私は占いには正直だ。なにがあってもどんな結果があっても、決して嘘や忖度はしない。
そして現実にも、絶対に正しい答えなんてない。いや、もしかしたらこの世の全てを計ることのできる圧倒的な法則のようなものがあるのかもしれない。
それでも――これは恐らく、一番の正解だ。
「見なかったことにしよう!」
私達も足早にその場を去り、切り株亭へ。
やはりこの世は、欺瞞と嘘だらけだ。
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