第十六話 キリエちゃんとデート
「ほらマリーちゃん早く早く」
「待って、待って」
お店に休業の看板をかけて、私達は街へと繰り出した。
通りに出てからのキリエちゃんのはしゃぎっぷりときたら、元気な妹、と言うより主人をかけ回すワンコみたい。
「ねぇねぇマリーちゃん」
「なあに?」
「そういえば私、マリーちゃんのことあんまり知らないって思ってさ」
それも、そうだ。私も、マリーちゃんのことをあまり深くは知らない。
いつもはそれぞれのお店を利用する者同士、互いに常連さん以上の関係ではないよね。
「マリーちゃんってさ、友達いるの?」
「ぐほぉっ」
ド直球だ。ド直球の質問は胸に来る……。
「大丈夫!? 突然膝から崩れ落ちたけど」
「だ、大丈夫、大丈夫よ……」
そ、そりゃ現世で生きてた時は、友人らしい友人もほとんどいなかったわよ。でもこっちに生まれ変わってからは……
「……そういえば、いないわね」
令嬢だった頃は、周りにいた人達は家族を除くと執事とかメイド達ばかり。他の家のご令嬢達も仲が良かったかと言うと……うん、けっこう怪しい。
現に私が追放されたその時も、手を差し伸べてくれるどころか、声をかけてくれた人すらいなかったっけ。結局貴族達の社交界というのも、上辺だけの付き合いでしかなった。
そう考えると……あれ、私って結構寂しい人なのでは?
「ならさ、今日みたいにまた誘ってもいい?」
「え?」
それは……もちろん断る理由はないけど。
「でも、どうして?」
「店の仕事柄さ、どうしても同年代の人って男の子ばっかりで、女の子の友達ってほとんどいないの」
確かに、切り株亭にやってくるのはほとんど男性ばかりだし、周囲も似た様なお店ばかり。となれば、同年代の子と知り合う機会もそう多くはないのかもしれない。
「お父さんのお店は好きよ。でもやっぱり同世代のことおしゃべりもしたい、って思っちゃうのよね」
それは、私もそうだ。
ウィルを始め、この街で色んな人に出会ってきた。でもみんな年上だったり、異性だったり。気を許せる同性の友人はほとんどいない。
「だからたまには一緒に遊びに行こうよ! 友達として」
「友達、として、か」
もしかしたら、この世界に来て初めてかもしれない。
同い年の女友達が出来るのは。
「どう?」
少し困った顔で眺めてくる姿に、私は迷うこともなかった。
「もちろん、断る理由なんて無いわ」
「やった!」
「ただし、今度からは事前に約束をしてからね。今日みたいに突然付き合えるとは限らないから」
「うん!」
キリエちゃんが元気よく笑いかける。
見ているだけで、元気が湧いてきそうだ。
「ねえ、見て見て、マリーちゃん。アイス売ってるよアイス!
食べよ食べよ、と私の手を引き、アイスの屋台へ。
転生してから、こんな風に遊んだのは初めてかもしれない
現世の頃はずっと働きっぱなしで、たまの休日はなにをしてたか……今では思い出すのも難しい。
「マリーちゃん一口ちょうだい」
「いいよ。私もマリーちゃんの一口ちょうだい」
「はーい」
イチゴ味のキリエちゃんのアイスとバニラ味の私のアイス。
互いに買ったアイスを互いに頬張り合い、そして互いに美味しいと唸り合う。
「ね、来て良かったでしょマリーちゃん」
「そうね、キリエちゃん!」
そうだね。
こういう日常も、たまにはいい。
「あっ」
「おっ?」
私とキリエちゃんが大通りを進んでいると、前からバッタリ。
私達同様少し驚く顔をしたウィルと遭遇した。
「ウィルさん、なにしてるの?」
「なにって、騎士団の仕事だよ」
「へー珍しい。今日は屋根の上に登らないんだ」
私が助けられた時も、似たようなことをしていたな。
「いつもそうしているわけじゃない……マリー達はなにを?」
「あー私達は」
「デートよデート」
私の腕に抱きついてくるキリエちゃん。
柔らかな体が、温かくていい香りもしてくる。
「羨ましいでしょ~」
私とウィルは、これには思わず苦笑いだ。
「そ、そういえばキリエちゃん、話してたお店はどこにあるの?」
さすがにいたたまれず、話題を変える一言を投げかける。
するとキリエちゃんがキョロキョロと見回し始めた。
「たしか、この辺だけど」
「じゃあ俺もそろそろ。ちょっとこの辺りに用があって……」
そう言って、ウィルも辺りを見回す。
二人が周囲を見回すと、お互いが同じ所へ目線を向けた。
「あっ……」
その目線の先にある大きな看板。
ラステル雑貨店。
どうやら、私達の目的地はお互い同じ場所だったようだ。
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