第33話 自分の心配をしたらどう?
「なに言ってんだよ……。俺たちのことは放っといてくれよ。もう俺は……」
『いいから聞きなさい。フラウがいなくなったら必然的にウチが守護龍に戻らなきゃいけなくなる。そんなの御免だから。……それにこいつはドラゴンじゃない。人間ごときがドラゴンの姿をしてるのは尚更許せない』
俺が返事をする間もなく、アイシアは猛然とゴットフリートに向かっていった。
「グルァアアッ!!」
「グルルオオッ!!」
お互いがぶつかり合い、凄まじい衝撃波が巻き起こる。
「グギィヤァアアッ!!」
「グルォオオ!!」
両者一歩も譲らず、激しく戦っている。しかし、アイシアの方が優勢なようだ。ゴットフリートの攻撃を紙一重でかわし、隙を見ては強烈な一撃をお見舞いしている。
「すごい……」
思わず感嘆の声を上げてしまう。それほどまでにアイシアの戦いぶりは見事だった。さすがはフラウの姉ちゃんだ。
ゴットフリートはたまらず距離をとって魔法を唱える。
無数の魔法陣が浮かび上がり、そこから一斉に炎弾を発射してきた。
『フラウ、ロイ、よく見てなさい。──これがドラゴンの戦い方よ!』
アイシアはこともあろうにその魔法の中に正面から突っ込んだ。身体に当たって爆ぜる炎をもろともせずにゴットフリートに肉薄すると、その首筋に噛み付いて引き倒す。
「グギャアアッ!?」
悲鳴を上げる奴の首筋からは血が滴り落ちていた。だが、まだ息があるようで、必死に立ち上がろうともがく。
アイシアはそんなことお構いなしに再び組み付くと、今度は尻尾で何度も殴りつける。
「グルォオオ!!」
「グルルルッ!!」
そして、とどめとばかりに渾身の力を込めて頭突きをかました。
「ガハッ!?」
「グルッ!?」
両者はもつれ合ったまま倒れ込み、ゴットフリートはそのまま動かなくなった。どうやら気絶したらしい。
『ふぅ……なんとかなったみたいね』
「ありがとう。助かったよ」
『礼なんていらないわ。……ただ、1つだけ約束してほしいことがあるんだけど』
「なんだ?」
『これから先もフラウのことを大事にしてあげて。それだけで十分だから』
「ああ、わかった」
俺は力強く答える。それを聞いて満足そうな表情を浮かべたアイシアに、いつの間にか人間の姿になったフラウが近寄った。それに呼応するように、アイシアも人間の姿になる。
「姉様……私、姉様のことを誤解していました。……てっきり私たちのことが嫌いだったのかと」
「そんなわけないじゃない。……確かに最初は印象最悪だったけどさ」
「じゃあどうして……」
「大切な妹を守りたかった。──そんな理由じゃだめ?」
2人は互いに見つめ合って笑った後、抱き合っていた。俺は邪魔をしないように静かにその場を離れる。
アイシアの救援は予想外だったとはいえ、そのお陰でゴットフリートを倒すことができた。だが、肝心の女神にはたどりつけていない。
女神を倒さない限り、俺たちの目的は果たされないのだ。
「…………」
フラウはもう限界だろう。アイシアも先程の戦闘でかなり傷を負っているようにも見える。俺は少しずつ魔力が戻りつつあるとはいえ、この状況で女神と戦えるのか怪しかった。
一度退くか? そう考えた時だった。倒れていたはずのゴットフリートがゆっくりと起き上がったのだ。
「──っ!」
まずいっ! 俺は慌てて身構えるが、フラウたちは違った。2人とも俺の前に立ち塞がり、身構える。
「お前ら!」
「ロイは私が守ります……!」
「ウチだって負けられないのよ……。ここで退いたらウチの存在意義が無くなるから……!」
2人を睨みつけながら、瀕死のゴットフリートは笑った。
「ククク……。まさかこれほどまでとはな……。貴様らの強さを見誤っていたようだ……。しかし、この程度で女神様を倒せると思っておるのか?」
「……」
「……」
フラウは黙ってゴットフリートの言葉に耳を傾けていたが、やがて口を開いた。
「……私は諦めません。必ず女神を倒してみせる……!」
「不遜な輩め。女神様の力の前に屈服するがよい! クククク、フハハハハァッ!!」
ゴットフリートは突然気が狂ったような笑い声を上げると、どこからか大きな水晶玉のようなものを取り出して天に掲げた。
「女神ソフィア様! 我ら敬虔なる
すると、空が急に暗くなったかと思うと、上空に大きな魔法陣が浮かび上がる。そして、そこから何かが姿を現した。
「あれは……」
それは人の形をしていた。全身が神々しく輝いており、その金髪からは天使のような羽が生えている。
『──あたしは女神ソフィア。
澄んだ美しい声で、そいつは言った。その言葉を聞いただけで、体が震えるような感覚に襲われる。
これが本物の神の威圧感なのか……!?
『今すぐ降伏すれば命だけは助けてやるわ』
「……ふざけんじゃねぇ!!」
俺は叫ぶ。
「何が女神だ!! 偉そうなこと言ってるくせに、やってることは無茶苦茶じゃねえかよ!?」
「そうよ! お前のせいでフラウは邪龍に仕立てあげられて、封印させられたんでしょ!」
「……ロイと姉様の言う通りです。あなたは間違っています。あなたに人間の神を名乗る資格はない!」
3人同時に言い放つと、女神ソフィアは不愉快げに眉根を寄せた。そして、吐き捨てるように呟く。
『愚か者共め……』
「あぁ!?」
『身の程知らずも甚だしい。──あたしは人間に富と力を与えて魔物から守り、対価を受け取っているだけ。その何が悪いというの? むしろ、世界に混沌と破滅をもたらすあんたたちの方がよっぽど危険な存在よ』
「違う……私たちはそんなことを望んではいない……!」
『ならば何故、あたしを倒そうととするの? 人間に祝福を与えているこのあたしを……』
「それは……世界を救うためです! あなたは信じるもののみを救い、歯向かうものは消す。……恐怖で人々を支配しているだけです!」
『そう、それが答えね』
女神ソフィアは冷めた口調でフラウに告げると、再び俺たちに向き直った。
『──ならば容赦しない。消え去りなさい!』
「来るぞ!」
俺は咄嵯に叫んだ。直後、女神ソフィアは手を掲げる。
『──
その瞬間、凄まじい光の奔流が襲ってきた。俺はフラウを抱え込むようにして庇う。
「ぐぅっ!」
激しい痛みに襲われながらも、龍装甲を展開して俺はなんとか耐え忍ぶ。やがて光が収まると、俺は顔を上げた。
「フラウ! アイシア!」
フラウは無事だった。しかし、アイシアの姿がない。俺は慌てて辺りを見回すと、少し離れたところで横たわる彼女の姿が見えた。
「アイシア!」
俺は駆け寄ると、抱き起こす。どうやら気を失っているだけのようだ。俺はほっと胸を撫で下ろす。
「──ロイ、後ろ……!」
「え?」
フラウの声で振り向くと、そこに女神ソフィアがいた。
『ふっ、馬鹿ね。仲間の心配よりも自分の心配をしたら?』
「しま──」
俺は慌てて防御姿勢を取るが、間に合わない。次の瞬間、俺の体は後方に吹き飛ばされていた。
「ロイ!」
「ぐはぁっ!」
俺は背中から壁に激突する。
「かはっ……」
俺は血を吐き出すと、そのままずるりと床に倒れ込んだ。視界の端には、フラウが必死の形相でこちらに向かってくる姿が見える。
だが、もう遅い。俺は死を覚悟した。
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