第31話 ドラゴニックバスター

 俺は逃げ出すものには手を出さず、こう叫んだ。


「俺たちを倒したければ女神を連れてくることだな!」


 やがて、謁見の間には俺たち以外誰もいなくなった。すると、シドニウスが近づいてきて俺の肩に手を置く。



「国王はオレが命令を遂行しても殺すつもりだったらしいな……悪かったな兄ちゃん、嬢ちゃん。助かったぜ」

「気にすんなよ。それより、これからどうするんだ?」

「……とりあえず、この国を出る。このままじゃオレはただの犯罪者だ。他国に逃げ込んで、そこでやり直すよ」

「……そうか。頑張れよ」

「お前らも、死ぬなよ? 本当は最後まで一緒に戦ってやりたかったが、女神相手となるとオレは足でまといだからな……」

「ああ、俺たちだけで決着をつけるさ。な、フラウ?」

「はい、もちろんですロイ。それが私たちの目標ですから」

「そうか……。頼んだぞ、2人とも」


 シドニウスはそう言い残すと、俺たちに背を向けて歩き出す。しかし数歩歩いたところで立ち止まり振り返った。


「あ、そうだ。まだ嬢ちゃんとの決着が着いていないんだ。また酒場で飲もうぜ」


 シドニウスはニカッと笑うと再び前を向いて歩き出し、今度こそ本当に去っていった。


「……」


 俺は無言のまま彼の背中を見送る。……しかし、まさかシドニウスと共に戦うことになるとは思わなかったな。でもアイツは悪い奴じゃない。本当は女神との決戦の時も一緒にいて欲しかったが、これは俺たちの戦いだ。巻き込むわけにはいかなかった。


「……フラウ」

「はい」

「いよいよだな」

「……なにがあっても、ロイのことを守りますね」

「いや、逆だよ」

「えっ」

「フラウを守る。約束しただろ」

「で、でも私は守護龍ですよ!?」

「関係ないさ。フラウは俺の仲間で、家族なんだから」

「あ……うぅ」


 フラウは顔を真っ赤にして俯いてしまった。……そんなに恥ずかしいことを言ったつもりはないんだけどな。


「あの……ふ、不束者ですが……」

「なんの話だ?」

「……なんでもないです」


 フラウは俺の首に抱きついてきた。そしてそのまま頬擦りしてくる。


「……ロイ、大好き」

「ああ、俺もだ」

「私はロイとずっと一緒にいたいです。だから、必ず女神を倒します」

「ああ、俺たちならきっとできるさ」

「はい!」


 フラウは笑顔で返事をした。そして俺の顔に唇を寄せてくると── ちゅっ 軽くキスをしてきた。その拍子に、またフラウから俺の身体に魔力が流れ込むような感覚がした。

 残り少ない魔力なのに、フラウはそれを全部俺に託すつもりではないだろうか。少し不穏だった。


「えへへ、誓いのキッスですね!」

「そ、そういうもんなのか……?」

「そうです! これで私たちは無敵になりました!」

「まぁ……確かに元気が出たけどさ。お前は大丈夫なのか?」

「はい、今のところ絶好調です! それより、早く女神を倒しに行きましょう!」


 フラウはやる気満々だ。俺も覚悟を決める。その時扉が開いて、今度は白い装束を身につけた一団がなだれ込んできた。


「どうやら向こうから来てくれたみたいだな」

「女神信徒ですか……」


 俺は龍装甲をまとい、そこら辺に落ちていた剣を握って身構える。すると、白装束の一団の中から煌びやかな衣装に身を包んだ壮年の男が現れた。──大司教のゴットフリートだ。

 ゴットフリートは俺たちを一瞥いちべつするとニヤリと笑う。


「よもや、再び王都にやってくるとはな……まさに飛んで火に入る夏の虫じゃわい。女神様から授かったわしの力、たっぷりと味わうがよい」

「お前を倒して女神も倒して、全てを終わらせる! 行くぞ!!」


 俺は勢いよく飛び出してゴットフリートに迫る。だが次の瞬間、奴の目の前に魔法陣が展開されそこから巨大な炎の壁が出現した。


「恐れ多くも女神様を倒そうなぞ不遜千万! 忌まわしき邪龍とドラゴンライダーめ、その罪地獄で償わせてくれようぞ!」

「くっ……」


 炎の壁に阻まれ、なかなか前に進めない。その間にゴットフリートの周囲に次々と魔方陣が出現し、光を放つ。やがてその中から無数の光の槍が俺たちに向かって放たれた。


「ちぃッ!! 龍壁ドラゴンウォール!」


 俺はとっさに防御用の障壁を展開する。しかし、攻撃は防げても視界まで遮られてしまう。


「しまった……!」

「ロイ、上です!」

「なに!?」


 フラウの声に反応して見上げると、そこには空中に浮かんだゴットフリートの姿があった。


「お主らの運命はここで終わりじゃ。死ねい、邪悪な存在どもめ!!!」


 ゴットフリートが手を掲げると、上空に大量の光が浮かんだ。それはまるで太陽のように輝いている。


「あれは……まずい!」


 俺はとっさにフラウを抱えて横に飛び退いた。その直後、今まで俺たちがいた場所に凄まじい量の光線が降り注いだ。


「ぐあっ……!」

「きゃあぁっ……」


 地面が溶け、爆発が起こる。俺たちはなんとか直撃は免れたが、それでも余波だけでかなりダメージを受けてしまった。


「こ、これが女神の加護を受けた者の力なのか……?」

「うぅ……ロイ、しっかりしてください」

「フラウこそ大丈夫か? ……くそっ、なんて威力だ」


 あんな攻撃を何度も喰らったらひとたまりもない。だが、女神本人はゴットフリートよりもさらに強いのだろう。ここで苦戦しているわけにはいかない。


「はぁ……はぁ……。ふん、この程度でわしを止められると思うたか?」

「いや、思わないさ」

「ならば何故、抵抗する?」

「私利私欲に走るようになった王家や女神を倒し、この世の救世主になるためだ」

「……愚か者が。もはや言葉は無用! 死にゆく者に語ることなど何も無い。せめてもの慈悲として一瞬で殺してくれるわ」


 ゴットフリートは再び両手を高く掲げると、先ほどと同じ規模の光弾を無数に生み出す。


「フラウ、下がってろ。全力を使う」

「はい! 頑張ってください、ロイ!」


 フラウが後ろに下がるのを確認すると、俺は剣を構えて意識を集中させる。そして一気に魔力を解放すると、身体中に魔力が満ちていくのを感じた。


「いくぞぉおお!!」

「来るがいい、小童がァアアッ!!」


 ゴットフリートの叫び声とともに、全ての魔力を込めた一撃が放たれる。俺も渾身の力を込め、剣を振り下ろした。


斬龍覇ドラゴニック・バスター!!」


 全力を込めた技、ドラゴニック・バスター。放った魔力が龍の形をとってゴットフリートを襲う。眩しい閃光を放ちながら、一直線に奴に向かっていった。そして──

 ズガガガガッ!! 轟音と共に激しい衝撃波が巻き起こり、辺り一面を吹き飛ばす。俺も吹き飛ばされそうになりながらも、必死に耐えた。

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