第16話 何でも言うとおりにするとかは言っちゃいけません!

 私は顔の筋肉を引き締めて、ことさら冷たい表情をして、


「貴女は確かにバカですね」


「うん……あきれた?」


「貴女のせいで私は、婚約破棄をされた傷物女ということになってしまいました。

 女として立ち直れない屈辱です。傷心です。だから保養に行くことにします」


 ウソです。


 うちとの繋がり目当てでいろいろ話は来ているんですが、傷心してるってことにして断ってます。

 これは我が家全員納得済み。

 保養という名目で新領地を徹底的に視察するのです。


「そうなんだ……アタシのせいだネ……」


 くっ。かわいい。シュンとしてるゼルダかわいすぎます!


 貴女のせいじゃないの! って言いたい。


 言いたいけど、なんとかこらえて。 


「そうです。貴女のせいです。全く困ったモノです。

 だから貴女にはこうなった責任をとってもらいます。いいですね」


 ゼルダは私をまっすぐに見ると、きっぱりとうなずきます。


「うん。覚悟してる。なんでもマギーの言うとおりにする」


 覚悟を決めたゼルダ。きりっとして格好いいです。

 ああ。やっぱり私の騎士。バラの騎士です。


 でも、何でも言うとおりにするとかは言っちゃいけません。

 こんなかわいくて勇敢できれいなゼルダに何でもしていいなんて言われたら、それこそ何でもしちゃいます!


 あんなことやこんなこと――


 おほん。


「貴女には貴族の娘としての自覚がなさすぎです。

 男爵家の娘としての嗜みを身につけて貰わねばなりません。

 だから私の保養期間中は、私専属のメイドとして、私が教育します。いいですね?

 女主人と見習いメイドです。もう甘い顔はいたしません」


 一生懸命真面目で厳しい顔をしていましたけど、心臓がバクバクです。


 ゼルダとずっと一緒。


 しかもこの子、メイド服とか似合うに決まってます。

 想像しただけで、恍惚となってしまいそうです。

 そんな最高度に可愛いゼルダとずっとふたりきりなんて……めまいがします。


 朝から夜まで一緒。


 旅先ではいつも側にいて貰わねばなりません。

 ゼルダは剣士のお祖父様からそちらも仕込まれていますから護衛としても役に立ちますし。

 食事も、も、もしかしたら入浴も、寝るのも一緒になるでしょう。


 私の我が儘じゃないですよ。必要ですから! 必要なんです!


 だけど。ああ、だけど。

 メイドが、御主人様であるお嬢様が寝る前にベッドをあたためておくのは常識です、とか教えたら。

 私が寝ようとすると、そこにはすでにゼルダが寝ているとか!

 そ、それで私がうっかり冗談で、

「人肌のぬくもりにするためには、裸になってベッドに入るのが常識です」

 とか教えたら……おおお教えませんけど!


 耐えられるでしょうか? 甘い顔をしないで済むでしょうか?


 こんなにかわいくて、きれいで、勇敢で、善良で、

 私が計算高すぎて忘れてしまいそうになる事を決して忘れず、

 私を好きでいてくれるゼルダに。


 絶対にムリです。

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