第13話 我ながら心が狭いです。

「ゼルダ様。おかわりはいかがですか」


 いつのまにか隣に、ブホンが立っていました。我が執事ながらたまに怖いです。


 若い頃は、お父様と色々、本当に色々した仲らしいですけど。謎です。

 お父様が、知らなくていいことがあるんだよ、と仰るので知らないようにしています。


「もらうー。ほんとーにブホンのお茶はサイコーだよネ」


 なにくつろいでるんですか。まったく……。

 ブホンはうちの執事ですし、貴女の家はお隣ですよ。


 でも、厳格かつ凄腕の剣士であるゼルダのお祖父じい様も。

 計算高いお父様とお母様も、何事も隙がないブホンも、ごうつくばりのお兄様方までゼルダには甘いのです。


 一番甘いのは私ですけど。それは絶対に譲れませんけど。


「お褒めにあずかり恐縮です」

「うーん。一生懸命やってるんだけど、ブホンみたいには淹れられないネ」

「ゼルダ様の筋は悪くないです。何事も精進が肝心ですから」


 え。なに。


 ブホンってば、いつのまにか、この子にお茶の淹れ方とか教える関係になってるんですか!?

 そりゃ、ブホンのお茶はこの国一だけど、でも、悔しいです。


 私の悔しげな視線に気づいたのか、ブホンが咳払いをして、ちらっと私を見ました。


 文句言うなってことでしょうか?


 またブホンが咳払いをして、小さく首を振ります。


 え、ちがうんですか?


 ブホンはゼルダを見て、私を見ます。


 ああそういうこと。昨日のことを言えと?


 確かに、釘を刺しておかないと、また変なことやらかしかねないし。



「ブホンってば風邪? だいじょーぶ?」

「いえ。心配してくださってありがとうございます。ではごゆっくり」


 音もなくブホンが立ち去る。


「すごいよねーブホンは。

 どうやったらああいう風に歩けるかも盗もうと思ってるんだけど、

 ぜんぜんできないんだよね。ああいう風になりたいなー」

「むっ」


 確かにブホンは、あのお父様が惜しみなく高給を払うだけあって、我が家自慢の執事ですけど。

 私とも無言で遣り取り出来るくらい、気心が知れた仲ですけど。

 家族と言ってもいいくらいの人ですけど。


 でも、ゼルダが目をキラキラさせてると、ちょっと、むっとします。


 我ながら心が狭いですね。



 気を取り直して、


「ゼルダ」

「ん?」

「なんであんなバカなことしたんですか?」


 エリザベートでバラの騎士はこの子です。この子が変装していたんです。

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