第12話 元婚約者どもの末路

 こんな態度と服装だから誰も気づきませんけど、ゼルダはスゴイ美形なのです。

 しかも、男装すれば美少年だとか、ますます困るじゃないですか。


 新たに発見した魅力は昨日のうちに『ゼルダ観察日記』に書き込んでしまいましたよ。

 鍵付きの日記です。見られたら死ぬる。


 このかわいらしくもうつくしいな顔を始終見てるんで、世間で美男って言われてる男を見ても、なんにもときめかないんです。

 まったく、どうしてくれるんですか。

 だからムリにでも離れようとしていたのに……。


 ああ、まつげ長くて綺麗。緑がかった瞳は宝石みたい。

 ほっぺたやわらかそう。つんつんしたい……はぁぁ……。


「んでんで、どうなったのあのバカちんぽん」


 美を無駄遣いしているゼルダが、無邪気に聞いて来ます。

 でもその無自覚っぷりがかわいいんです!


「そういう言葉遣いは、私との時だけにしなさいよね」

「はーい」


 同い年とは思えないですが、そこがまたかわいいんです。

 ああ、かわいい、きれい、くらいしか形容が浮かびません。

 ゼルダは私の語彙力も破壊しまくりです。


「サクセン侯爵家は破産。領地の権利は全て違約金代わりにうちのもの。

 ただあの家の侯爵位とタウンハウスだけは残しました」

「やっさし-」


 王都のタウンハウスと侯爵位はとりあげない、とお父様がやさしく言ってあげたら、サクセン家当主は泣いて喜んでいました。


「貴女ってば一体何年うちとつきあってるのよ。そんなわけないじゃない。

 平民以下の貧乏侯爵よ、単なる平民なら見栄も張らずに済むけど、ド貧乏な侯爵。地獄よ」

「あはは。あばらやに住んでる侯爵かぁ……それは辛いネ」


 領地も支配してる人もいない侯爵なんて、食べていくのも困難です。

 その上、王都の馬鹿でかいタウンハウスだって維持しなきゃなりません。

 だけど給料が払えないから、奉公人達も全員辞めさせたようです。

 こうなるとお屋敷は荒れ果てていく一方ですね。


 領地からのあがりが消滅したからには、平民以上に働くしかないのですが、周りとはうまくやれないでしょう。

 なんせ意識だけは侯爵様ですから。

 かと言って、屋敷を売り払い爵位を返上するのは無駄なプライドが許さないでしょうし。


 外見だけ豪華な屋敷の中は、まさに地獄。


 お父様ってば、あの一族がよっぽど嫌いだったんでしょうね。

 うちの資産からすれば微々たるものとはいえ、さんざんたかられましたから。

 領地の屋敷でなくて王都のタウンハウスを残してやったあたりめちゃ意地悪です。

 領地より王都は物価も高く出費も多いんです。

 

「んでんで、肝心のおバカさんは?」

「平民に落とされました。

 我が家が要求するまでもなく、激怒した侯爵に北の鉱山へ送られたわ。

 家に与えた損害を少しでも返せって」

「でも、アレって女と遊ぶ以外に体力つかってなかったでしょ?

 すぐ返せなくなっちゃうんじゃないの?」

「まぁその辺は……多分、心を入れ替えて働いてくれるんじゃないかしら」


 ゼルダの指摘通り、普通ならすぐ体を壊してしまうでしょうね。

 考えようによっては、そのほうが本人にとって幸せです。

 だけど、そうならないように手を打ってあるのです。


 鉱山の医師や現場監督に、少々お金を握らせまして。

 生かさず殺さずにしておくように、見守らせているのです。


 長い期間保てば保つほどボーナスを払うことになってるので、彼らもはりきってやってくれるでしょう。


 元婚約者にとっては地獄でしょうね。

 日々の労働は辛いなんてものじゃないでしょうし。

 あんなにプライドが高くては、周りの抗夫から浮きまくっていじめられるに決まってますし。

 しかも女がいない環境で、白くてなよなよしててそれなりに美形なんですから、どういう風に扱われるやら。


 その上、給料はほぼ全て賠償にあてられるので、手元には何も残りませんし。


 まぁ、やらかしたことを考えれば当然ですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る