第8話 ネーミングセンスはどうにかしてほしいです!

「な、なひほするんだエリザベータぁ! ぱ、パパァンにもぶたえたおとなかったのにひ!」


「アタシはエリザベータなんて女じゃない!」


 自称エリザベータは、バッとドレスを脱ぎ捨てました。

 ついでに金髪も放り投げられます。なるほどカツラでしたか。

 大きな白い塊がふたつ宙を舞います。胸パットですね。


「ボクは! 男だぁぁっ!」


 ドレスの下には、白のタキシードでビシッと決めた細身の人影が!

 黒髪のショートカットがものすごく似合ってます。

 しかもキラキラときらめく切れ長の目が、童話の王子様のよう。


 ああ胸がドキドキしてしまいます。


 頭の中身の幼さを知っていても、やっぱり格好いいです。

 まったくもって罪作りです。もっと好きになってしまうじゃないですか。

 私を萌え殺すつもりですかっ!?


「お、男ぉぉぉぉぉ!? お、オレ様のエリザベータはッッ! あのボインボインのおっぱいはァッッッッ!?」


 出席者達から称賛の声声声。


「おい美少年だぞ!」「バカだと思ったら美少年だ!」

「誰かしらあの殿方!?」「バカだがイカすぞ!」「バカだけど素敵!」


 などという声が上がっています。


 ふふーん当たり前です。

 昔からこの子ってばキレイなんです。

 態度とオツムがアレなんで気づいてるのは私くらいですけどね。


 っていうか、他のひとは気づかないでよいです。気づくな。


「しかもお、オレ様より美男だとはァァッ! 許さないぞ許さないんだからナァァッ! マ、ママァンとパパァンにいっ言いつけてやるゥゥ!」


 私は、絶叫する元婚約者を見下ろす位置に、ずいずいずいっと進み出て。

 バカ丁寧な口調で教えてさしあげます。


「フリードリヒ様。エリザベータとかいう男爵令嬢は存在いたしません」

「な、なぬぅ。わ、わけがわからないことをいうなァ!」


 美少年は勝ち誇ったように胸をそらすと、


「ミュンヒハウゼン男爵家なんてねーの!

 貴族のくせにそんなこともわかんねーのか、ばーかばーかおたんちん!

 バカ野郎この野郎!」


 語彙が!

 罵倒語彙が貧しすぎます。


 でも、いいんです。私のために言ってくれているんですから。


 胸がきゅんきゅんしてしまいます!


「おっ、お前は何者なんだッ!」

「アタ、おほん、ボクは、浮気男から淑女を守る謎の騎士! バラの騎士様だ!」



 ださっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る