第9話 バラの騎士の華麗なる逃走

 その時、おっとりがたなで我が家の奉公人達が駆けつけてきました。


 先頭には怒髪天でちょびひげまでピンと立てたお父様といつも糸目のクール執事ブホン。

 デブとヤセノッポのいいコンビです。


「茶番はそれまでだ! 婚約者殿をとりおさえろ!」


 お父様の命令一下、奉公人達がフリードリヒ様に飛びかかり床に押さえつけます。


「むぎゅぅっ。なぜにオレ様ガァッ! は、離せぇ! オレ様は侯爵家の――ぎゃぼっ」


 お父様は断固としてバカの頭を踏みつけ、容赦なく床へ押しつけながら。


「なぜこのようなアホなふるまいに及んだのか、とっくりじっくりと聞かせていただきますぞ。

 御実家にはもう使者を出しておりますから、おっつけ父君も駆けつけるでしょうな。

 さぞかし激怒していなさるでしょうなぁ。バカ息子のせいで破産一直線ですからな!

 ふっふっふはっはっは!」


 あまりにあまりな愚行っぷりに、侯爵位というオマケへの未練は捨てることにしたようです。


「は、破産!? ど、どぼじてっ!?」


 そもそも判っていなかったとは! 

 ここまでバカだとは思ってもいませんでした。


「そちらが有責で婚約が解消されるなら、莫大な違約金を払っていただくことになっておりますからな」


 お父様は妙に丁寧な口調で告げたかと思うと、一転してドスが利いた声で。


「今までさんざんツケを回しおって! それも全額払って貰うから覚悟せい!

 もっとも、お前の実家には借金以外はあるまいがな! このドドド貧乏人めがっ。

 金持ちの靴の重みを存分に味わうがいいっ!

 これが金の重みだぁぁ! 金をバカにするものは金に泣くのだ!」


 グリグリと靴で踏みつけてます。

 もはや潰れたトマトです。


「ひたいひたぃぃぃ。あ、あの狼藉者こそ捕まへっあっ、ひたたたたぁ」


 バラの騎士は、あかんべえをしたかと思うと、


「だーれがつかまるか! ボクは神出鬼没の愛の騎士! えんまく!」


 そう叫ぶやいなや、足元に何かを叩きつけました。


 もくもくと沸き立った白煙が辺りにひろがります。


「ごほごほっ、さ、さらばっっ」


 がちゃーんと窓が割れた音が響きます。


 逃げ出したのでしょう。あの子の運動能力なら逃げるのは簡単でしょうね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る