第36話 か、構いませんよ?
フィオグと別れた後、オレは単身で冒険者ギルドへ足を向けていた。
オッフェンの動向を調査するためだ。
クラスナとセルフィーも来たがっていたが、オレたちが連れ立って出歩いていることをオッフェンには見られたくない。オッフェンを嗅ぎ回っていることが明白になってしまうからな。
王都は巨大な都市だから、街中でばったり出くわす確率はほぼゼロに近いが、ギルドに行くとなると確率はグンと上がるわけだし。
というわけでオレが単身ギルドに入ると、受付嬢の一人が声を上げる──リセプだった。
「カルジさん!」
今は昼過ぎで、ギルド受付も併設酒場も人が引けている。だからオレは、並ぶことなくリセプと話すことが出来た。
「リセプ、久しぶりだな」
「本当ですよ……! この一ヶ月間、いったいどこに行ってたのですか……!?」
「悪い、ちょっと修行してた」
「ちょっとって……一ヶ月間、クエストも討伐もせずに?」
「そ……そう言われてみれば……そうなるな……」
よくよく考えてみたら……この一ヶ月間、オレは一切稼いでいない。
クラスナから給金はもらったから借金返済は滞りなかったし、しかもセルフィーがいつも食事を用意してくれたから食費も掛かっていない。当然、南国ロッジの宿泊料も無料ときた。
……なんだかオレ、たんなるクラスナのヒモになってないか……?
いかん……今回の件が片付いたら、せめて魔獣討伐くらいは定期的に行わないと、クラスナが丸損じゃないか。
無理すれば100億ものカネを用意できるらしいクラスナからしたら、オレの給金などぜんぜん大したことないのだろうが……このままでは自分が自分を許せない、というより、こんなに世話されっぱなしでは自分がダメになりそうで怖い……
「カルジさん? カルジさーん?」
リセプの呼び声に、オレは我に返るのだった。
「あ、ああ……すまない。とにかく、色々一段落したら働くつもりだから……!」
「まぁ、それはいいのですが。いずれにしても少しは顔を見せてください。こちらも心配してたんですよ?」
「それも……申し訳ない」
リセプにもギルドで世話になりっぱなしだというのに、大した恩返しもできていなかったからな。だというのに顔も見せないというのは不義理が過ぎた。
「これからは定期的にギルドに寄ることにするし、長期不在の際は予め知らせるよ」
「ええ、そうして頂けると助かります」
リセプはにっこりと笑う。その笑顔を見て、オレは内心で胸を撫で下ろしながら言った。
「それでリセプ、急に現れたかと思ったらお願い事ばかりで申し訳ないんだが……」
「大丈夫ですよ。それがわたしたちギルド職員の仕事ですから」
「いつも本当に助かっているよ。ただ今回は、あまりおおっぴらに出来ない相談で……」
「では個室を使いましょうか。今は空いてますからすぐでも大丈夫ですよ?」
リセプにそう言われて、オレは思いを巡らす。
ギルドの個室であればたぶん大丈夫だと思うが……万が一にも、何かしらの魔法を使われていたとしたら──例えば盗聴魔法でも仕掛けられていたら、リセプの身も危険に晒すことになる。
何しろオッフェンは曲がりなりにも冒険者だ。ギルドには毎日のように出入りしているだろうから、用心するに越したことはないだろう。
それに幸い、まだ時間はあるはずだ。尾行の気配もない。
だからオレは小声で言った。
「できれば……仕事が終わったあとがいいんだが……」
「……え?」
オレのその申し出に、リセプは目を丸くする。
「時間外だというのに本当に悪いとは思っているんだが……どうだろうか?」
「え、えっと……」
心なしか、リセプの頬が赤くなっている気がした。
いつもは、感情を露わにしないほうだというのに今日は珍しいな。
まぁ最初のやりとりは、音信不通だったオレが悪いのだが。
そんなリセプは、少し逡巡した後、オレから視線を外しつつも答えてきた。
「か、構いませんよ?」
「そうか。恩に着るよ」
リセプのその答えに、オレはお礼を言ったのだった。
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