第33話 そこいらの冒険者よりは、よっぽど顔が利くっつーの
クラスナの母親と別れを告げた後、オレたちは王都の邸宅へと戻ってくると、オレは今後の方針を話す。
「まずは、クラスナの実家の所在地がどこから漏れたかを突き止めたい。クラスナ、気分を悪くするような質問ですまないんだが……この邸宅の家人たちは、実家の所在地を知っているのか?」
するとクラスナは首を横に振った。
「ううん。とくに必要なかったから言ってなかったよ。実家との連絡は通信機だったし」
「そうか、なら容疑者からは外せるな。よかったよ」
オッフェンは第一線の冒険者だから、使用人やメイドを買収するくらいのカネは持っているだろう。
だからもし彼ら彼女らが実家の所在地を知っていたのだとしたら、その忠義を疑うことになってしまうから、知らないと聞いてオレは安堵する。
「だとすると、あとは……魔法大学院か……」
魔法大学院は、入学の際に実家の所在地を申告する。ほとんどの子供が親元を離れて寮生活になるから、大学院は緊急連絡先として保存してあるわけだが、それがどこからか漏れたのかもしれない。
オレが、それ以外の情報漏洩について思いを巡らせていると、セルフィーが聞いてきた。
「冒険者ギルドはどうなのですか?」
オレは、ギルド加入時を思い出してから答えた。
「いや……あそこには出身地や実家に関する情報はない。現住所や拠点所在地は書かされたが、出身地は書いてなかったはずだ……そうだよな、クラスナ」
オレは念のため確認する。クラスナはリーダーだから、メンバーとは違った書類も書いているからだ。
「うん、わたしも書いた記憶はないよ」
「そうか。ならギルドの線はないとして……あとクラスナのほうで、実家所在地をどこかで記入した記憶はあるか?」
「……ううん、今思い出せる限りは、とくにないはず……」
「となると、やはり魔法大学院の線が濃厚だな」
オレのつぶやきに、クラスナが不安げな表情を向けてくる。
「もしかして……高等部の誰かが……?」
クラスナは、現役の高等部生だからな。不安になるのも無理はない。
だからオレは務めて明るく言った。
「内通者の可能性もなくはないが、教員を含む大学院関係者が、犯罪に手を染めるのは考えにくいな。これまで頑張ってきた学業やキャリアが台無しになるし、いま大学院に残っている学生は、お金に困ってないだろうから買収も困難だ」
オレの意見に、セルフィーが頷きながら口を開く。
「そうなると窃盗でしょうか?」
「ああ、その可能性が高そうだ」
しかし今から魔法大学院に出向いても、大学院は巨大な組織だ。学生の情報が盗まれたことを把握しているのがどこの部署なのかを突き止めるだけでも一苦労だろう。
であれば……アイツを頼るか。
「これから大学院に行っても時間が掛かるから、憲兵をやってる知人の元に行こう」
オレのその台詞に、セルフィーが目を丸くする。
「カルジさんって……知り合いがいたんですね?」
セルフィーは結構まぢに驚いているようだったので、オレは肩を落とした。
「あのなぁ……中退とはいえ、オレだって魔法大学院の院生にまで進級したんだぞ? その卒業生を頼れば、そこいらの冒険者よりはよっぽど顔が利くっつーの」
「まぁ……言われてみれば確かに」
オレみたいな平民かつ庶民出身の学生は、奨学金制度がガラリと変わった煽りを食って中退するしかなかったが、貴族や豪商の学生たちは普通に卒業しているのだ。
魔法士が廃れたといっても、卒業すれば活躍の場はゼロではない。とくに国内秩序の保全を目的としている憲兵隊は犯罪捜査が主業務だから、魔法士は未だに活躍できていた。
つまり今どきの魔法士は、切った張ったよりも潜入調査に特化していた。おそらく軍隊のほうも諜報部隊などには魔法士がいるのだろう。
どちらも狭き門ではあるのだが。
あまり思い出したくない過去をちょっと振り返ってから、オレは二人に言った。
「というわけで、次は憲兵隊詰所に向かうぞ」
二人は真剣な面持ちで頷いてきた。
(週末はまとめて書……けるといいなぁと思いながらつづく)
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