第19話 ビキニ姿でストレッチを実演してもらうのは……ちょっとクるものがあった……
結局、なぜ南国に来たのかは謎のままだった。
たぶん、セルフィーが悪ノリしただけだろう。
まぁオレとしては……二人の水着姿が見られただけでも眼福ではあるのだが。
そんなことを考えながら、オレは浜辺を見回す。
「それにしても、なんでこの浜辺には誰もいないんだ? こんないい場所なら、海水浴客で賑わってても良さそうなものだが」
オレの疑問には、クラスナが答えてきた。
「だってここはプライベートビーチだからね。わたしたち以外いないよ?」
「プライベート……?」
オレは唖然としてクラスナを見る。
クラスナは、水着姿(シャツは羽織ったまま)がまだ恥ずかしいのか、頬を赤らめながらも言ってきた。
「ちょっと前に、セルフィーがバカンスしたいっていうから買ったんだけど、何度か来ただけで放置してたから」
セルフィーが付け足してくる。
「よく考えてみたら、女二人でビーチに来ても、面白くもなんともなかったことに気づきまして」
そんな物言いように、オレは呆れ返ってぼやく。
「そんなこと……買う前に気づけよ……っていうか、島一つおねだりするメイドさんって、どんな立場だよ」
オレのそんなツッコミに、セルフィーは肩をすくめてきた……セルフィーのほうは、どうやら水着姿にはもう慣れたらしいな。
「ですがまぁ、屋敷で働く執事やメイドたちには好評ですから。ちょうどいい保養施設になってますよ」
「ならいいけど……」
「つい先日も、オルガとランファがこの保養施設を利用していましたね。めでたくくっついたようです」
セルフィーのその話に、クラスナは驚いて目を丸くする。
「え、うそ!? あの二人が!?」
「ええ……そのようです」
「いっつもケンカばかりしてたのに?」
「クラスナは甘いですね。あれはケンカではなくじゃれ合っていたのですよ」
あまり詳しくは聞かないが……人数が多くなると、どこもかしこも学生のノリと変わらなくなるのだろうか? まぁ……その二人が幸せであるなら別にいいケド……クラスナ邸内の人間関係も良好なようだし。
なんだか内輪かつ色恋ネタに花が咲きそうだったので、オレは話を戻すことにした。
「この場所が私有地なのは分かったよ。そうしたらそろそろ、基礎トレを始めないか?」
オレの台詞に、クラスナは本題を思い出したようだ。
「おっと、そうだね。それじゃぼちぼち始めようか!」
砂浜はフライパンのように熱かったので、椰子の木陰に移動してから準備体操を始めた。
オレは長座をして「ふんっ!」という掛け声と共に前屈を始める。
「え……? あの……カルジ?」
クラスナの、なぜか唖然とした声が聞こえてきたが、オレは手足を思いっきり伸ばしているので彼女の顔を見る余裕がない。
「な、なんだ……!?」
「……それ、曲げてるんだよね?」
「どぉいう意味だ!?」
オレは上体を起こすと、ぽかんとしているクラスナを見た。
「がっつり曲げてたじゃんか」
「そ、それで……曲げてるつもりなの……?」
「つもりって……え? 曲がってるだろ……?」
クラスナの素のリアクションに、オレはいささか心配になって聞き返すが、クラスナは何も言ってこない。
その代わり、オレの隣に長座になると、自身の上体を曲げて見せた。
「な……!?」
クラスナの体は、軟体動物かと思うほどにすーっと曲がる。
上体を起こしてから、クラスナが言ってきた。
「長座体前屈っていうのは、今みたいなことを言うのよ」
「う……いやそれは、クラスナが女性だから体が柔らかいだけで……」
「体の柔らかさに男も女も関係ないでしょ」
ちなみにセルフィーにもやってもらったが、クラスナと同じくペッタリ曲がった。
なお……ビキニ姿でストレッチを実演してもらうのは……ちょっとクるものがあった……
とにかく二人の柔軟性を見て、オレは感嘆の声を上げる。
「二人とも凄いな。オレなんて、学生のころからこんなもんだったぞ?」
「いや……それはトレーニングをサボりすぎでしょう? 体育の授業とかどうしてたの?」
「だいたい図書館で自習してた。そもそも無理やり運動させられるってのが謎だったからな」
学生の頃を思い出し、オレは懐かしい気持ちになっていたのだが……クラスナはため息をついていた。
「あのねぇカルジ。最近の研究だと、運動は頭の良さにも関係してくるんだってよ?」
「え……ま、まぢか!?」
「まぁカルジの場合、運動しなくても成績優秀だったってことは、地頭がとてつもなくいいんだろうけど……」
ふむ……天才に優秀だと褒められるのは悪い気分じゃないな、などと思っていたが、クラスナは褒めてはいなかったようだ。
「でも、冒険者をやりたいなら、せめて基礎体力は常人以上でないと、そのうち行き詰まるからね?」
「だ、だよな……っていうかまぁ……もともとオレは冒険者志望じゃなかったんだが……」
「宮廷魔法士とかでも同じことだよ。っていうか、カルジは人として体力なさ過ぎ!」
「ぐっ……! 人として、までもか!?」
そこまで言われるとさすがに落ち込む。他の冒険者よりはちょっと体力ない自覚はあったけど……
クラスナはオレの横で仁王立ちになりながら言った。
「いくら魔法で補強できると言っても、戦闘中は一つの魔法しか使えないんだよ? 並列発現を覚えるのにはそれなりに時間がかかるんだから、覚えるまでに並行して体力もアップしてもらうからね?」
眩しい太陽の逆光でシャツが透けて、クラスナのボディシルエットが露わになっていたが……どうも気づいていないようで、あと水着姿が恥ずかしいのはもう忘れたらしい。
「ちょっと、聞いてる?」
オレはジロリと睨まれて、慌てて何度も頷いた。
「も、もちろんだ! クラスナはオレの師匠でパーティリーダーだからな! クラスナにそう指摘されたのなら、ちゃんと体も鍛えるぞ!?」
「よろしい。じゃ、わたしが後ろから少し押すから、ゆっくり前屈してね」
クラスナはオレの背中に手を突くと、徐々に力を入れていく。
「ぬぐぐ……もう限界……」
オレは、すぐさま脚の後ろに突っ張りと痛みを感じて呻きを上げた。
「ほ、ほんとにコレだけしか曲がらないの!? ちょっとセルフィー、前から引っ張って!」
「やれやれ……仕方がありませんね」
「お、おいおい……こーゆーのは、あんまり強く引っ張ったらよくないんじゃ……」
「魔法で回復できるから大丈夫だよ」
「ごーもんか!?」
そしてオレは、背中から美少女に体重を掛けられ、前から美女に引っ張られ……嬉しいんだか苦しいんだか訳が分からない状態になる。
オレが呻き声を上げ続けていると、クラスナが耳元で言ってくる。
「ほーら、もうひと頑張り! あと一分堪えようか!」
「ぐぐぐぐぐ……ん!?」
オレの背中に、クッションのように柔らかい物体が二つ押し当たる。
こ……これってまさか……!?
それがなんなのかに気づいた途端、オレの血流は下半身中央部へと集中してしまう。
ま、まずい! 今は海パンで、しかも体が拘束されているようなもので、しかも眼前にはもう一人の美女がいるんだが!?
すると案の定、セルフィーの視点が一箇所に集約された。
「はぁ……カルジさんも男、ということですか……」
「仕方がないだろ……!?」
オレの後ろで体重を乗せるクラスナだけが気づかず「もうちょい、もうちょいだから頑張って……!」と言っている。
ストレッチの激痛と、背中の興奮と、眼前の羞恥と、おまけに間近で感じるクラスナたちのいい匂いとで……
オレは、下半身から逆流した血を鼻から噴いて目を回すのだった……
(水着回はまだつづく!)
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