第15話 両手に花のパーティはひがまれるんですよ?
「カルジさん、パーティが早速見つかってよかったですね」
受付カウンター越しに、パーティ編入できたことをギルド職員のリセプに伝えると、彼女は自分事のように喜んでくれた。
「ああ、すぐに手続きしてくれたリセプのおかげだ。ありがとう」
「いえそんな。職員として当然のことをしたまでですから」
編入希望の掲示を終了してもらう必要があるので、パーティに編入できたらギルドに一報を入れなくてはならないのだが、伝える職員は誰でもいい。
だがオレはリセプにお礼を言いたくて、彼女の手が空くのを待っていたのだ。
「それでカルジさん、どこのパーティに編入したんですか?」
「クラスナがリーダーをやってるパーティだ」
「クラスナ……クラスナ……ありました」
名簿の束をペラペラめくって、リセプはパーティメンバーを確認する。パーティには特定の名前は付いておらず、リーダーの名前で登録されている。
「えっと……クラスナ・アイヴァスさんがリーダーで、サポーターにセルフィー・エリアーデさん……おや? これまでたった二名で活動されていたということですか? しかもうち一人はサポーターって……」
「ああ、そうなんだよ」
王都の冒険ギルドは巨大で、登録されているパーティは数百組みにもなるから、ギルド職員も全員の顔と名前を把握しているわけではない。
オレみたいに、頻繁にパーティから追放されたり、未だ魔法士をやっていたり(いや、今は歩荷か)のような変わり種か、オッフェンのような無法者なら覚えられているだろうが、多くは善良な冒険者だ。ギルド職員も、顔は知っていても名前までは覚えきれないだろう。
高ランク冒険者なら、ギルドとの付き合いも頻繁になるし数も少ないから、クラスナの事も知られていると思ったんだが、彼女はどうやら冒険者としての活動はあまり熱心ではないらしい。副業とも言ってたし。
そうなるとクラスナは、ギルド関係でランクを上げたわけではないようだ。魔法大学院での研究成果などでランクをSSにしたのかもな。
オレがそんなことを考えていたら、リセプが聞いてきた。
「あの……カルジさん。こちらのパーティは大丈夫なんでしょうか……?」
公衆の面前で、他人の実力をおいそれと話すことは
「午後に酒場のほうで、オレとオッフェンがちょっと揉めてたんだけど聞いてるか?」
「はい、聞いています。オッフェンさんには何度も注意しているのですが……そう言えば、模擬戦で彼が破れたとも聞きましたが、もしかするとカルジさんが?」
「まさか。そのオッフェンを倒したのがクラスナだよ」
「え……本当ですか?」
オッフェンは、素行は悪いが実力はある。それを魔法士であるクラスナが一人で負かしたと知れば誰もが驚くだろう。
だからオレは念押しで頷いてみせた。
「ああ、本当だ。だからクラスナの実力は折り紙付きだよ」
「にわかには信じられませんが……それにこの方……17歳? 女性……!?」
名簿には、氏名・年齢・性別、そして職種しか書かれていない。だからリセプはますます混乱したようでオレに聞いてくる。
「あの……もう一人のサポーターは、メイドとありますが……」
「ああ、実質クラスナが一人で戦っているようだ」
「いくらお強いとはいえ、一人でサポーターを守りながらの単独行動は……でもだからこそ、カルジさんを招き入れたのでしょうか?」
実際は違うのだが、クラスナの強さはにわかに信じられないからな。だからオレは「そうかもしれないな」とだけ答えておいた。
「それにしてもカルジさん……パーティメンバーは全員女性ということになるんですね?」
魔法具が普及してからは女性の冒険者も増えてはいるが、それでも比率は男のほうが多い。男7:女3といったところだろう。
「そうだな。クラスナたちは、女性だけでは何かと苦労があったらしいから、それもあってオレを……あ、ちょうど二人が来たところだ。いい機会だから紹介しておくよ」
クラスナとセルフィーが、買い物袋を抱えながらギルドに入ってくるのが見えた。夕食の買い物をするというので、オレは一足先にギルドに来ていたのだ。
オレが手を振ると、気づいたクラスナが嬉しそうに駆け寄ってくる。なんだか仲のいい妹ができた気分でこそばゆい。
「カルジ、手続きは終わったの?」
「今やってるところだよ。リセプ、彼女がクラスナで、あっちがセルフィーだ」
セルフィーは普通に歩いてきて、今し方カウンター前に到着したところだ。
二人が「よろしくお願いします」と挨拶をすると、リセプは、ちょっとあっけにとられた感じで頭を下げた。どうやら初対面らしい。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね……っていうかカルジさん?」
リセプは、いつもの笑みを浮かべているのだが、なぜか今は口端を少し引きつらせているように見えた。ごくわずかだったが。
「お二人とも、とても綺麗でびっくりしましたよ?」
「あ、ああ……そうだよな。オレもそう思う」
男のオレが、あまり女性の容姿には触れないほうがいい気がするのだが、リセプに話を振られては仕方がない。
オレの横でクラスナが「綺麗だなんて、そんなぁ」などといいながら照れている。セルフィーは、さも当然といった感じで動じてもいないが。
そんなオレたちに、リセプはにこやかに言ってきた。
「このメンバーでは、ギルドの酒場は利用しない方がいいかもしれませんね」
リセプのその忠告に、オレは首を傾げる。
「どういうことだ?」
「カルジさん……知らないんですか? 昔から、両手に花のパーティはひがまれるんですよ? まぁ滅多にいませんが」
「ひがまれるって……ああ、そういうことか」
オレは周囲を見回すと、ギルドロビーを出入りしている冒険者たちの視線が集まっていることに気づいた。中にはあからさまに敵意を向けて来る奴らまでいる。
綺麗といえばリセプも綺麗だし、今のオレは両手に花どころではないな……
まぁ……同じ男として気持ちは分からんでもない。
「そ、そうだな……今後は気をつけるよ……それにクラスナはまだ未成年だしな。いずれにしろ酒場の利用は控えよう」
「うー。子供扱いしないでよ。お酒くらいもう飲めるんだから」
「ダメだってば。まだ成長する……必要はないかもだが体によくない」
「……いま、どこ見てたのカナ?」
クラスナが、買い物袋で胸元を隠して体をよじる。オレは慌てて言い訳をした。
「もちろんクラスナの顔だが!? 顔を見ないで話すなんて失礼だからな!?」
「フーン? まぁいいケド……」
少し後ろで佇んでいたセルフィーが言ってくる。
「むしろクラスナにとってはご褒美では?」
「なんでよ!?」
クラスナが慌てふためいて振り返る。だがセルフィーは飄々としていた。
「クラスナ、使えるものは使っておかないと後悔しますよ?」
「言っている意味がまったくもって分からないよ!?」
「ちょ……お前ら。ただでさえ目立つんだからもうちょっと静かに……」
「元はといえばカルジのせいでしょ!?」
「オレは何もしてないが!?」
そんな言い合いをしていたら、周囲の視線がよけい剣呑になっていく……
そんなオレたちにリセプが言ってきた。相変わらずの笑顔で。
「ずいぶんと仲がいいんですね。元々知り合いだったんですか?」
リセプの指摘に、オレは首を横に振った。
「いや、知り合ったのはつい先日だよ」
「そうですか……お二人とも魔法大学院に在学していたのでしょうから、先輩後輩なのかと思いました」
「そう言われてみれば、クラスナはオレの後輩に当たるのか。でも歳が離れすぎているからなぁ」
オレとクラスナは一回りも離れているわけで、クラスナが初等部入学したころにオレは大学部だからな。そもそもの校舎が違うから知り合えるはずもない。
オレは、クラスナを眺めながら言った。
「でもまぁ……敷地は同じだから、どこかですれ違ったりはしてるかもな?」
そんなオレに、クラスナはムスッとしながら答えてくる。
「そうかもねっ!」
「…………?」
さっき、思わず胸元を見てしまったことをまだ怒っているのだろうか?
クラスナは武術も一流のようだし、ちょっと盗み見るだけでもバレてしまうってことか。今後は気をつけないと……
「クラスナ、本当に悪かったよ。これからは、決してお前を変な目で見ないから……」
「……別にそれは、なんとも思ってないよ」
「…………?」
ぷいっとそっぽを向くクラスナに、オレは首を傾げる。やはり女の子の扱いは難しそうだな……
これからクラスナと行動するにあたり、ちょっと不安になってきたが、回りの視線も気になるしそろそろ退散するか。
そう思ってオレはリセプに言った。
「それじゃあリセプ、掲示終了のほうはよろしく頼むよ」
「分かりました。また何かあったらお気軽に声を掛けてくださいね?」
「ああ、ありがとう」
「あ、それとクラスナさん……」
リセプは振り返ろうとしたクラスナを呼び止める。
「カルジさんのこと……よろしくお願いします」
「うん……もちろんだよ」
真剣な眼差しのリセプだったが、まだクラスナの実力を測りかねているのか、どことなく不安げな瞳だった。
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