第11話 今の発言、取り消しなさい! でないと後悔するからね!!
午後になったのでオレは再びギルドに訪れていた。
書き換えの終わったアビリティカードを受け取り、職業が歩荷に変わっていることを確認する。
……なんとも言えない気分だな。
魔法士になって大金を稼いだら、田舎の両親に仕送りでもしようなどと考えていたのに、仕送りができないのはもちろんのこと、今や魔法士を維持するために稼がねばならないのだから。
まぁいい。クラスナのスキルが身につけられたのなら、すぐにでも魔法士に戻って、今度こそ大金を稼げるかもしれないし。
ちなみにレベルは18まで下がっていた。リセプの見立てよりも低くて落ち込む。ランクは元のまま最底辺のEだから、これだとパーティに入れたとしても最初は薄給だな……どうしたものか……
オレはため息をつきながら、ギルド酒場の一角に座った。
王都のギルドは国内屈指の規模を誇っているから、ギルド酒場もだだっ広い。席数だけでも四人掛けが1000席はあるという。
しかし今は客の入りは少ない。この時間帯の冒険者はクエストや討伐に出ているわけだから、昼食も出先で食べるし、いわんや昼間っから呑んだくれている連中はろくなのがいない。
そう──昼間っから呑んだくれている輩はまっとうな冒険者ではないのだ。
その数人が、酒を片手にオレへと近づいてくるのが見えた。
(……待ち合わせ場所を間違えたな)
オレは目を合わせないようにしたが、連中はニヤつきながらオレの目の前で立ち止まった。
「よぉカルジ。テメエ、魔法士をやめて歩荷になったんだって?」
ここで無視をすると荒事になりかねないので、オレはため息を押し殺して答える。
「一時的な処置だ。実力とカネを貯めたら、また魔法士に戻るつもりだ」
「ははっ! 歩荷でカネが溜まるかよ! バカじゃねぇの!」
麦酒の入ったジョッキをドンッとテーブルに置くと、リーダー格の男がオレの向かいに座った。
オレは顔をしかめながら告げる。
「オッフェン、オレは待ち合わせ中なんだ。悪いが席を外してくれないか」
パーティを組んだことはないが、この男はオッフェンといって、高レベルだからギルドで幅をきかせている。冒険者は、拠点を中心に活動をする定住組と、旅をして回る放浪組の二種類に分かれるが、王都ギルドの定住組でコイツを知らない者はいないだろう。
かくいうオレも定住組だから、この男の事はイヤというほど知っている。
一言でいえば、強盗団の頭ではないかと疑うほどの粗野な人間だ。
そんなオッフェンは、麦酒をあおってからニヤリと笑った。
「ツレねぇじゃないかカルジよ。せっかくオレが、テメエをスカウトしに来たってのによ」
「はぁ? 何を言っている?」
オッフェンのパーティは、オレを取り囲んでニヤニヤしている五人がメンバーだ。全員、前衛か中衛で、サポーターを守れる人材など能力面でも性格面でもいやしない。だからオレは言った。
「お前のところは、サポーターを雇う必要がないだろ」
正確には、サポーターを雇う余力がない、と言いたいところだが、わざわざ火に油を注ぐ必要もないだろう。
するとオッフェンは、厳つい顔をゆがめる──どうやら笑ったらしい。
「なに。このオレもつい先日ランクAになったんでな。そろそろパーティを拡張しようかと思ってね」
「そうか……それはおめでとう」
日頃から態度の悪いオッフェンのところに入りたがるサポーターなんていないと思うが、そこは黙っておく。
「その栄えある第一号に、テメエを指名してやろうってわけだ。掲示見たぜ、編入希望なんだろ?」
「………………」
オッフェンと取り巻きたちは終始ニヤついている。
どう考えてもまともに受け入れるとは思えないが、下手を打って怒らせるのも面倒だ。
オッフェンのレベルは確か40超えだったはず……少し以前、仲間に自慢していた内容が聞こえたことがある。オレのレベルは下がったとはいえ、潜在的にはレベル43の魔法士だが、それであっても、対人戦で斧使いのオッフェンには勝てる見込みもない。
もちろん冒険者同士の戦闘行為は禁止だが、ケンカ程度は度々あることなので見逃されている。だが相手を殺した場合は元より、魔法でも回復できないほどの怪我をさせた場合は話が異なる。
そうなると、怪我をさせた方が冒険者資格を剥奪される。資格剥奪になると、クエストを受託できなくなるのはもちろん、魔力買取りもしてもらえなくなるのだ。
危険な仕事ではあるが、アビリティカードのおかげで死亡率はだいぶ下がったし、何より実入りがいいので、資格剥奪されるほどの行為に及ぶ連中はいないのだが……
オッフェンの場合、面と向かった戦闘でなくても、裏でネチネチと仕掛けてくるという噂もあるから要注意だった。
だからオレは、務めて事務的に聞いた。
「分け前はどの程度を考えているんだ?」
オレのその台詞が意外だったのだろう。オッフェンは片眉を撥ね上げてから、いっとき黙る。
からかいに来ただけだったのだろうから、とくに何も考えてなかったんだろうな、この脳筋野郎は。
だからオレは自分の希望額を先に告げる。
「恥ずかしい話だが、オレはまだ魔法大学院の奨学金が完済出来ていない。だから最低でも、月100万ペルは保証して欲しいのだが、どうだ?」
「はぁ?」
オレのその提示額に、オッフェンは素っ頓狂な声を上げた。
「テメエはバカか? どこの世界に、歩荷に100万ペルも支払う冒険者がいるってんだ」
ここ王都の物価は高めではあるが、それでも、昼食一品の相場はだいたい800ペルと言ったところだ。ちょっといいランチセットを食べたいなら1500ペルくらいするが。
冒険者以外だと、30代前後の平均給金は月30万ペル前後だと聞いたことがあるから、危険手当を付けたとしても、歩荷の給金は40〜50万ペルくらいが相場だろうとオレは考えている。
しかしオレの場合、それでは生活費が捻出できないのだ。借金返済にぜんぶ持って行かれるどころか、月々の返済額にも満たない。
だからオッフェンに伝えた提示額は、ふっかけているわけでもなんでもなく本心からの希望額なのだ。多少割り引かれたとしても、80万ペルを切るようではやっていけない。
だからオレは説明を続けた。
「オッフェンの言う通り、新人歩荷に100万ペルを支払う冒険者はいないだろう。だがオレは元魔法士だ。そこを考慮して欲しいと言うことだ。掲示にもそう書かれていただろ」
「はん、テメエは底抜けのバカだな。今さら魔法士なんて無価値な職業に、そんな大金払うヤツはいねえってんだよ。だからテメエも歩荷に成り下がったんだろうが」
オレは、テーブルの下で拳を握りしめる。だが口調はあくまでも冷静を装った。
「魔法士が役に立たないのは認めるが、重要なのは原因だ。魔法士が役に立たない原因は、ひとえに魔法発現に時間が掛かることにある。魔法士は魔法発現すること以外にも、魔法の知識だって人一倍あるんだ。そこを歩荷として活かせるって話なんだよ」
「ハハッ! 何いってやがる。ただの荷物持ちに、魔法の知識が必要なわけないだろ」
オッフェンはそう言って大笑いする。取り巻き連中もゲラゲラと笑って見せた。
「カルジよ、結局テメエら魔法士は、能書きだけで無能でひ弱な存在だってことだよ」
「………………」
「今だってそうだ。魔法知識を持った歩荷だと? それは一体なんの寝言だ? まったくもって戦場を知らない証拠だな。お高い魔法学校とやらで、もう一度お勉強をやり直してきたらどうだ?」
オッフェンたちは再びゲラゲラと嘲笑する。
どうせからかいに来ただけだ。少しじっとしていれば、すぐに飽きてどこかに行くだろう。
そう思って、オレは無表情でオッフェンたちを眺めていたのだが──
「ちょっと! あなたたち!!」
──オレの後ろから、怒号だというのに美しい声が聞こえてきた。
オレが反射的に振り返ると、そこには、クラスナが仁王立ちしていた。
その後ろにはセルフィーも控えていて、冷たい眼差しをこちらに……というよりオッフェンたちに向けている。
しまった……クラスナたちが来る前に、オッフェンをやり過ごしたかったんだが……
オレが慌てて立ち上がり、クラスナを止めようとしたその直前に、クラスナが声を上げる。
レベル40以上でランクAの冒険者に対して、まったく臆することもなく、堂々と。
「今の発言、取り消しなさい! でないと後悔するんだからね!!」
(つづきも読まないと後悔するんだからね!!)
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