第9話  もう単独討伐だなんてやめてくださいよ?

 冒険者ギルドに出向くと、オレはまず、昨夜討伐した大物魔獣の換金をすることにした。


 その子分共に殺されかけたとはいえ、目的の魔獣自体は倒せたのだ。クラスナには手伝ってもらったようなものだから、ここから謝礼を支払うつもりだが、それを差し引いても今月の返済と生活費はなんとかなるだろう。


 オレは、ギルドのカウンター前に並びながら吸収晶を取り出しておいた。倒した魔獣から溢れ出た魔力は吸収晶に蓄えられている。


 冒険者の仕事は多種多様にあるが、基本的には魔獣討伐がメイン業務だ。ギルドから依頼されるクエストを受けなくても、街の外に跋扈ばっこする魔獣を倒すだけでも報酬をもらえる。


 だがもちろん、世界平和に貢献したから報酬をもらえるわけではない。


 魔獣の魔力が報酬対象なのだ。


 魔力は、様々な動力に出来るので使い勝手が非常によい。例えば、貴族の屋敷が夜でも明るいのは魔力のおかげだし、夏場に部屋を冷やせるのも魔力あってこそだ。


 王侯貴族の間では、魔法具が世に出る前から、そういった動力設備が用いられていて便利な暮らしをしている。ただしそれら設備は、かなり巨大で家一軒どころの大きさではないのだ。


 オレも、魔法大学院に通っていたころはその恩恵にあずかったものだ。とくにティルス王国の夏は暑いので快適だった。


 自分でも冷気は生み出せるが、疲れるし、寝てしまうと効果は切れてしまうからな。


 ちなみに魔法具は、そういった動力設備をダウンサイジングして、誰もが持ち運べるようになった代物とも言えた。だから吸収晶から魔法具に魔力充填も出来る。


 そういったわけで、便利で快適な生活を得るために、王侯貴族は魔力を買い取ってくれるのだ。ギルドはその仲介をしているに過ぎない。


 数分ほどでオレの番が来たので受付嬢に吸収晶を渡した。すると彼女は言ってくる。


「あれ、カルジさん? 先日、パーティから脱退したはずでは……」


 ここ王都のギルド受付嬢とは全員顔見知りだが、今回はリセプという女性が担当だった。ちょうど昨日、パーティの脱退届を受理したのも彼女だったから、オレが吸収晶を持ってきたことに疑問を持ったのだろう。


 首を傾げるリセプに、オレは答える。


「ああ。だから単独で討伐してきた」


「え!? 単独で!?」


 魔獣討伐はパーティで挑むのが大前提だから、リセプは驚きの声を上げる。


 そんな彼女に、オレは肩をすくめてみせた。


「もっとも、途中で別パーティに助けられたけどな」


「そ、それはそうでしょう……! でも運がよかったですね、他パーティが居合わせてくれたなんて」


 居合わせたというより尾行されていたようだが、ややこしくなるのでオレは話を切り替えた。


「まぁそんなわけで魔力が手に入ったんだ。換金を頼むよ」


「分かりました」


 リセプは、吸収晶から魔力を取り出す作業をしながら、雑談がてら聞いてくる。


「ずいぶんな魔力量ですね。大物だったんですか? あるいは数が多かったとか?」


 吸収晶に魔獣の種類を判別する機能はないが、吸収された量から、どの程度の魔獣だったのかは予測できるので、大物だということは分かったのだろう。


「ああ、ビッグベアを仕留めてきた」


「ビックベアって……ボス級魔獣じゃないですか。そんなのを一人で討伐しようだなんて、正気ですか?」


「これでも色々考えたんだぞ? いい作戦だと思ったんだけどな……」


「わたしには、自暴自棄になっているとしか見えません。もう単独討伐だなんてやめてくださいよ?」


 そう言い当てられて、オレは苦笑を返す。


 受付嬢にもいろんな性格の子がいるが、リセプは冒険者に対して親身になってくれる。だから人気も高い。


 ちょうどよかったので、オレはリセプに転職手続きをお願いすることにした。


「それで、リセプにちょっとお願いがあるんだ。換金業務が一段落したら、時間をくれないか?」


「いいですよ。30分も掛からないと思いますから、朝食でも食べて待っていてください」


 そうしてオレは報酬を受け取ると、ギルド併設の食堂兼酒場に足を向けた。


 今のうちに、クラスナたちに連絡を入れておくか。




(つづこう)

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