第5話  人生を見誤ったのが、わずか7歳の頃だったなんてな

 オレに魔力が内在していると分かったのは7歳のころだった。


 この国──ティルス王国は、7歳になると子供は学校に入学する。


 オレの知る限りでは、子供を学校に入れる国なんて知らないので、ティルス王国は非常に珍しい体制を敷いていた。その甲斐あってか、その国力は近隣諸国と比べても群を抜いている。


 その入学の際、魔法で適性診断が行われるのだが、そこで、オレに魔力が宿っていることが分かったのだ。


 当時、魔力持ちの子供は国の宝とまで言われていた。魔法士になることができるからだ。


 だからオレは、親元を離れて、王都にある魔法大学院付属の初等部に通うことになった。魔法学校への入学は、強制ではないにしろ暗黙の了解だったから、オレは疑問にも思わなかったし、両親も大いに喜んでいた。


 人生を見誤ったのが、わずか7歳の頃だったなんてな。だがもはや悔やんでも仕方がない。7歳の子供に、いったいどうやって20年後を予測させるというのだろう?


 そして見誤った最たる問題は学費だった。


 魔法学校の学費はべらぼうに高い。読み書き計算を教える普通の学校と比べると数千倍以上の差があるのだ。


 なので平民出身の場合、ほぼ間違いなく奨学金を使うことになる。奨学金と言えば聞こえはいいが、ようは借金だ。


 魔法士として一人前になるには、四半世紀ほども時間が掛かると言われている。7歳から勉強を始め、日々勉強と訓練に励み、30歳を超えるころにようやく一人前になれる。


 その間、学生に収入は一切無い。平民である両親の稼ぎも少ないから仕送りも期待できない。


 約25年間の学費は元より、食費・家賃・光熱費、さらには支給される制服代や教科書代にと、平民から見たら天文学的な金額になる。


 そうなるとバイトで返済できるような額ではないので、バイトに時間を費やすなら、一日でも一秒でも早く卒業して、魔法士として世に出た方がいいのだ。


 そこまでのリスクを負ってでも、魔法士になる価値は十分にあったのだから。


 まず稼ぎが段違いによかった。宮廷魔法士団にでも入れれば、25年間の借金なんて数年で返せるほどの給金だし、冒険者になったとしても、10年もがんばればお釣りが来るだろう──平民よりずっといい暮らしをしていても、だ。


 次に名声が手に入る。魔法士にはそれっぽい服装があるのだが、そんな服装をしているだけで、魔獣の一匹も討伐しなくたって英雄扱いだった。冒険者ギルドが発行するアビリティカードに魔法士と書かれていれば、貴族の家紋に勝るとも劣らないほどの威力だった。


 そして老後も安泰だ。冒険者は基本的に稼ぎがいいものの、なんと言っても肉体労働だから長くは働けない。だから現役時代に放蕩三昧していると、歳を取ったら食い詰めてしまうのだが、魔法士はそうならない。


 現役を退いても魔法開発という仕事があるのだ。むしろそちらが本命の魔法士だっている。


 だが魔法開発には、これまた莫大なカネがかかる。だから新人魔法士は、いちど戦場に出て稼ぎ、さらには現場経験も積んだ上で魔法開発に臨むのだ。研究開発費以外は魔法大学院から給金が出るので、例え研究成果が上がらなかったとしても食い扶持に困ることはない。


 もちろん現役時代に稼ぎ上げて、悠々自適の生活を過ごすこともできるし、おまけに魔法士は後衛だから、戦闘で負傷や死亡する確率も格段に低い。


 そういった様々な利点があったから、魔法士候補生は多額の借金をするのだ。


 だというのに、それらはぜんぶ過去の話となってしまった。


 そしてオレに残されたのは、多額の借金と、蔑みや哀れみの視線だけになった。

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