第27話 メリー・メアーと虹の架け橋 5
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〈ホール〉は隠された欲求の発露する場所でもある。
センセイの欲求も、いずれ悪夢と共に姿を見せるはずだ。個人的な欲求をいうと、それが素敵なメロドラマなら嬉しいのだが。
プールから上がって移動するとき、外にセンセイを見つけた。畑にしゃがんで西瓜生徒たちと会話している。
〈大丈夫だって。きっと伝わるよ。勇気を出して〉
子供達のなぐさめるような声が聞こえてきた。
さて、どうなることやら。
夕方になると、センセイが食事を作り始めた。
畑の野菜を使ってもいいのですよと私は進言した。いったい何故だかまったく分からないのだが「いや。結構」という返事が戻ってきた。
さらに、烏賊君は低カロリー高タンパクの上、独特のエグ味が最高ですよと親切からいってみたところ「いや。結構」というお答えをいただいた。
ならば手伝いましょうとすると、やはり「いや。結構」という。これもまた謎だ。
詞浪さんは詞浪さんで「ゆで卵とかで良いけど」などとネガティブなことをいい、結局、私たちはキッチンから追い出されてしまう。
「三時間ほど遊んでからまた来てくれ。最高のヘルシー料理を用意しますよ」
待つ間、私たちは戯れに二度、接吻した。
三時間後。
上階の貴賓室へ入り、私たちは隣り合って座った。
白い布をかけたテーブルに、センセイは約束通り、ヘルシーな料理を並べて待っていた。
私の素敵な野菜たちは一切使われていない。
「大丈夫だぞ。材料の安全性はぜんぶ俺が確認したからな。さあ食べてくれ。せめて箸をつけてくれ、さあ。口を開けて噛むだけ。ふくむだけでも良いから。さあ」
センセイは前のめりになって勧めてくる。
「やたらと勧めてくるな……」
詞浪さんが変な顔をした。
彼女は脂身の一切ない、鹿肉のソルベを選んで、ゆっくり噛んでいる。
センセイはテーブルに両手をついて、それをかぶりつきで見守るのだった。
「食べてるか? ごっくんしたか? 口を開けて見せて、口を開けて見せて。食べたな? 食べちゃったねえ」
「どうしちゃったの? この人」
〈悪夢の兆し〉は客人の認知や行動に変化を与えるのです、と私は説明した。夢の中って変な行動をとるものでしょう?
「正気じゃなくなるって事?」
いずれはそうなる。
が、今のセンセイはまだそこまでは行っていないように見えた。だが、早めに帰らせた方がいいのかもしれない。
詞浪さんがお尻で合図をしてきた。
「ずっと口元見てくるんだけど……」
センセイは慈愛に満ちたような笑みを浮かべて、詞浪さんを見つめている。
いったいどういう
きっとそれだけではない。
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