ゴールデンゴルゴーン対ドラゴン2
ドラゴンの武器といえば、その口から吐き出されるブレス攻撃だ。
ブレスとは呼ばれているものの、それがただの吐息なのか炎なのか毒なのか——全く解明されていない。
わかっているのはただひとつ。それを喰らった人間は100%死んでいるということだけだ。
その広範囲長射程の攻撃により、ドラゴンは手を下すことなくほとんどのモンスターを葬り去ることができる。魔界の王者と呼ばれる
ドラゴンのブレスが無差別に撒き散らされれば、それだけで脅威になる。100メートル以上離れている梨丸ですら、隠れている草むらごと焼き払われてしまいそうな予感に脂汗が止まらない。
それなのにゴールデンゴルゴーンはドラゴンの面前に悠然と立っている。恐るべき自信だ。
赤竜の胸が大きく膨らむ。ゴオオオオという荒々しい吸気音が聞こえてくる。梨丸は息を飲んだ。
やがて大口の中から激しい
数秒のブレス攻撃が止むと、そこには以前と変わらぬ姿のゴルゴーンがただ立っていた。防御姿勢すら取っていない。
敵が全くの無傷だったのはよほど意外だったのか、ドラゴンの若者は目を剥いた。
「むう……」
『お姉さんに息を吹きかけるなんて、お行儀の悪い子』
不思議なことに、ゴルゴーンの身につけている服や鞄までもが無事だった。それはどういう原理なのか、梨丸には想像すらできない。
「なるほどこれは
赤竜は丸太のような
だが信じられないことに、ゴルゴーンは両手でそれを受け止めた。彼女が人間なら、その細い腕では100キログラムのダンベルすら上げられないだろう。だが乙女はその100倍はあるドラゴンの体重を支えていた。腕も震えていないので、別に全力を出しているというわけでもないのだろう。
『他人に脚を上げるとは……礼儀をわきまえてほしいものだわ』
ゴルゴーンの長い尻尾が大きく振り上がった。波打ち、遠心力の乗った尻尾の先端はドラゴンの顔面を打ち
「おおお!」
赤竜が大きくのけぞった。その巨体が数歩後ずさる。
——尻尾ビンタ
梨丸は思わず拳を握った。バチンという派手な音に条件反射で身をすくめてしまうほどだったが。ただ純粋に強者への憧れがあった。
「——このチビが!」
赤竜は叫ぶと、のけぞっていた姿勢を反転させた。頭部が上から下へと乙女に降りそそぐ。その巨体らしからぬスピードで、ドラゴンはゴールデンゴルゴーンに
——うおお食った!
それがクリーンヒットしたのかどうか、梨丸のいる距離からではわからない。
すぐにゴルゴーンがアッパーカットを繰り出した。寸前で回避していたのだ。細い腕のどこにそれほどのパワーが秘められているのかは不明だが、それは若きドラゴンの
続けてヘビの尻尾が弧を描き、迅速な一撃がドラゴンの側頭部を強打する。
赤竜の巨体がゆっくりと傾き、横向きに倒れた。そのときの地響きは梨丸のいる場所まで伝わってきた。
ゴルゴーンは左手で右耳を押さえていた。そして手を開いてそこに付着しているものを確認したようだ。色白の手の平に付いていたのは赤い血液。
エルフのように尖った右耳の上部が、少し欠けていた。そこがドラゴンに噛み千切られ、出血していたのだ。
それを目撃した瞬間、梨丸の脳内に強い感情が沸き起こった。
——魔界最強種でも怪我をする! やりようによっちゃ勝てる!
ドラゴンの頭部はティラノサウルスほど大きくない。ものを噛む力——
討伐するなど夢のまた夢だと思われていた絶対強者も、結局はただの生物だったのだ。その事実を確認できただけで、少年は将来に希望が見いだせた。
ゴールデンゴルゴーンは怪我を負っても取り乱してはいなかった。ただ、その
『なんということでしょう。少々お
これから魔界最強種の本気の一撃が繰り出されるのだと思うと、さすがに好奇心より恐怖が勝る。
怒れる乙女は蛇の下半身をバネのように丸めると、それを一気に解放して垂直に高く高く跳躍していく。
滞空中のゴールデンゴルゴーンはそのままぐるぐると前方宙返りを始めた。
それはまるで、水泳の高飛び込み選手のような美しいフォルムだ。金髪とヘビの下半身を守る茶色の鱗が、青空に綺麗な渦巻き模様を描いていた。
もちろんただのパフォーマンスではないだろう。長い長い全身をフルに使って、遠心力を限界まで効かせているのだ。
人間の扱う
滞空中に充分な回転運動をしたあとで、ゴールデンゴルゴーンは優雅に着地した。体操選手のように素晴らしい姿勢だ。
そして一瞬遅れて、尻尾の先端部がドラゴンに襲いかかる。
存分に
近代兵器を持ち込めない魔界に、ミサイルの着弾かと思われるほど圧倒的な炸裂音が響き渡った。
もはや音ではなく衝撃だ。それは100メートル以上離れた梨丸の髪を激しく巻き上げる。周囲の木々も風圧で大いに
湿った砂地ではそれほど
地に伏すドラゴンの巨体は、大きく地面にめり込んでいた。梨丸のいる位置からではもはや被害状況が確認できない。だが少なくとも、とてもグロテスクな状態になっていることだけは確信できた。
これだけのことをしておきながら、しかしゴルゴーンが若者に向ける視線は冷めていた。挑戦的で
まるで“この程度の挑発行為はよくあることだ”とでも言いたげに、乙女の表情はさっぱりしていた。
『我らを
魔界最強種の1体、ゴールデンゴルゴーンはそう言うとヘビの下半身をくねらせ、ずるずると歩き去っていった。
やがて死んだ赤竜の巨体は魔界の大地に飲み込まれて消えてしまう。もしドラゴンの爪や翼を持ち帰ることができたら、それだけで一生恐竜の
しかし最強種の前に出て素材を
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