ゴールデンゴルゴーン対ドラゴン1
魔界最強種の1体・ゴールデンゴルゴーン。
最強種を除いた中での、魔界のモンスターにおけるヒエラルキーの頂点・ドラゴン。
この両者の激突を目撃できた人間はあまりいないだろう。
モンスター同士の戦いなど、見ようと思って見られるものではない。それは一期一会の価値を持つ。魔界ではモンスターの“人口密度”が低いのだ。
そのときの少年は興奮していた。ここが世界で一番の危険地帯だということを忘れるほどに。この世の圧倒的な強者と強者がぶつかり合う——それを間近で観戦できるのだ。梨丸は本能的な高揚感に包まれていた。
怪物同士の戦いと遭遇したのは
ゴールデンゴルゴーンという絶対強者が周遊道路に
その日の梨丸は狩りではなく調査のために魔界を散策していた。なので相棒もヴェロキラプトルのハヤテだ。
本栖湖の東側はささやかな市街地になっていて、そこから道路が南北に延びている。そこが魔界で最初のルート分岐だ。
南に進めば、富士山の西部から南西部に広がる
北に進めば他の富士五湖である
周囲にゴルゴーンの気配がないかを確認したら、本栖の市街地を一気に通り過ぎてから南北どちらかに進む——それが魔界探索の基本だ。梨丸はそのまま通りを北に行き、精進湖方面のモンスター生態調査をしようと思っていたのだが。
そこで上空から重厚な風切り音が聞こえてきたので、相棒と共に草むらへと身を隠した。
飛んできたのはドラゴンだ。
やがて本栖湖方面から聞こえてきた重い地響きで、そのドラゴンが水浴びでもしにきたのだと知る。少年は予定を変更してその様子を見てみようと思った。
出会えるかわからないモンスターの調査よりは、目の前のドラゴンだ。
梨丸とヴェロキラプトルは、相手から100メートル以上は離れた草むらから様子をうかがった。
そのドラゴンの体色は鮮やかなクリムゾンレッド。ティラノサウルスよりは若干小さい程度のサイズで、若い個体。岩壁のような皮膚にはいくつもの傷跡が付いていた。色から受けるイメージ通り血気盛んなのだろう。梨丸は心の中で【
赤竜は大面積の翼を使って湖水を巻き上げ、
そのとき湖の中からゆっくりと姿を現したのがゴールデンゴルゴーンだ。おそらく彼女は遊泳を楽しんでいたのだろう。そこへ無謀な若者が乗り込んできたので、注意しに来たといった感じか。
ゴルゴーンは半透明の衣服や肩掛け鞄をつけっぱなしだった。どうやら水中へ入るときに衣服を着脱するという概念は持ち合わせていないらしい。
モンスターは縄張り意識が強い。ほとんどのケースでは
このときは違った。
若く好戦的であろうドラゴンと、
お互いに譲り合いの精神は見られなかった。
ゴルゴーンは水際まで進み出てからドラゴンの若者に向かい合うと、語りかける。
『あらあら坊や、私の縄張りに入ってくるなんて』
梨丸はこの声を聞いた瞬間、わけのわからぬ感動に包まれた。
——マジでゴールデンゴルゴーンも言葉話すのかよ! ていうかなんでこいつも日本語なんだよ!
ドラゴンが言語を解するのは知っていたが、他の最強種たちが言葉を発するのは初めて聞いた。魔界の神秘をまたひとつ解明したことで、少年は
余裕ある乙女の口ぶりに、ドラゴンも負けてはいない。両者の距離はおよそ10メートル。モンスターにとってはすでに近接戦の間合いだ。
「魔界の全てはドラゴンの支配領域。地を
『若い個体は困ったものね。人間みたいに恐れを知らない。魔界の危険地帯を、そちらの頭領に教わらなかったのかしら?』
「その美貌で人間をたぶらかすしか能のない生物種。危険だとは思えないな」
目の前の乙女を
しかしゴルゴーンの表情には哀れみが浮かぶ。
『富士山頂では教育が行き届いていないようだわ。仕方ありません、私が魔界の
「どこで水浴びをしようとオレの勝手。か弱き乙女が人間たちから【最強種】などと呼ばれて、調子に乗ったか。人間からしてみれば、強大な我らも貧弱なお前らも、
『ああ……よその坊やを勝手に
これは人間でたとえるなら、ケンカ自慢の後輩と、実力ゆえに落ち着いた先輩の衝突だ。校内でもバイト先でも、人間は各所で似たような争いをしていた。魔界のモンスターもマウントを取り合うのは変わらなかったらしい。
もうじき卒業になってしまう学生時代を、梨丸は懐かしく思い返した。
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