十二日目 高田栞奈③
お試し期間というのはいったいどういうものなのだろう。
本人たちの認識はともかく、四日目を迎えても傍目にはいつもと変わらぬ二人に見えた。
同じ教室にいても必要以上に話すこともなく、昼ご飯も別々で、帰るタイミングになって思い出したように、
「あ。今日はどうする?」
とどちらかから伺いを立てることになる。今日は
どうしてか、こちらを見た。
ばっちりと目が合う。そらすのも不自然な気がしたので、私はそのままの姿勢でいた。
すると緩士がこちらに近寄ってきたのだ。
「
「ごめん、意味がわからない」
今これから高田さんとどこかに行こうとしているのに、どうして私の予定を確認するのか。
「なんか用事あるかって聞いてんの」
私が意地悪でそう返したと思ったのか、緩士は苛立った様子で再度尋ねた。
「ないけど」
と私は答える。答えながら、ちらっと高田さんの様子をうかがった。高田さんも緩士が何をしようとしているのかわからないといった顔でこっちを見ていた。
だけど、私より一足早くその意味に気がついたようだ。
慌ててこちらに駆け寄ると「駄目だよ
そうだそうだと心の中で頷きながら、私は二人のやりとりを黙って追う。
「えー。いいじゃん。二人より三人の方がいいだろ」
「でも
「こいつはないよ。金曜日はまっすぐ家に帰るだけだもん。なあ、才苗」
「……そうなの?」
高田さんがその一言を私に向けて投げてくる。
『そうなの』と答えたらどうなるのだろう。まさか二人の放課後デートに付き合わされるのか? この進展のなさそうな二人ならあり得なくはない話だが、どう考えたって私には荷が重い。
どう答えるのが正解か。
私が考えているうちに、
「そうだろ?」「そうなの?」
と二人がそろって詰め寄る。
「予定はないけど……」
言葉を濁すと、緩士と高田さんは顔を見合わせガッツポーズをした。そのあとにハイタッチへと続く。完全にいつも通りの、友だち同士のノリだ。
その勢いが消えぬうちに、
「それじゃあ才苗も行くぞ!」
緩士が私の腕を引いた。
「ごめんね、植月さん。説明はあとでするから」
高田さんには背中を押され。
好奇の目にさらされながら、そのままの形で玄関まで駆け抜けた。
「それで、私はどこに向かってるのでしょうか」
自然とため息がこぼれた。
最寄り駅に着くなり我が家とは反対方向の電車に乗せられた。
「私の家に向かってる」
申し訳なさそうに言った高田さんは腕時計に視線を落とした。がっちりとしたスポーツタイプの腕時計だ。
「どうして私が高田さんの家に?」
「ああ、それは、ええと」
高田さんらしくない歯切れの悪さだった。
「じつはさあ、暮木にうちの店手伝ってもらってて」
「高田さんのおうち、お店やってるの?」
「ちっちゃいお菓子屋さんなんだけどね。この時期大忙しで」
離れた場所に立っていた女子高生が持っていた紙袋に目が行く。よく行く駅前の店のものだがクリスマスの絵柄になっていた。
ああ、と私は声を漏らした。
人手が足りないから私にも手伝って欲しいということは理解した。だけど今は二人が互いを知り合うための、大事な大事な『お試し期間』ではないか。そんなときに私がいては邪魔になるのではないだろうか。
「私はいいんだけど、二人は、いいの?」
ここまで来ておいてなんだが、念の為、確認をする。
二人はまったく気にしない、むしろぜひ助けて欲しいと私の手をとった。
「ほんと、暮木がまったく使えなくて困ってたんだ」
「まあそれは置いとくとして。才苗に手伝ってもらって余裕ができれば、手伝い以外の時間も作れるだろ」
「え、暮木、そんなこと考えてたの」
「そりゃ考えるだろ。お試し期間なんだから全力でアピールして、それで次の火曜にはいい返事もらわないといけないんだから」
「そうか。そうだったね。ハハハ」
照れたように笑う高田さん。
そんな表情を見ていると彼女の方もまんざらでもないのかと思えてくる。
「頑張らないとね」
私はこっそり緩士に言った。
緩士は真剣な顔でうんと頷く。
「才苗がいるから、大丈夫だろ」
頼りにしてるぜ、と言わんばかりの笑顔を向けられて、私は幼馴染みらしく、「任せときなさい」と緩士の背中を力一杯叩いた。
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