7次会 本祭へ
清酒祭も終わり、学校内はいつもの静けさを取り戻していた。
推し活部の部室では、毎日流れてた曲はもう流れていない。歌やダンスの練習で騒がしかったのが嘘みたいに静かであった。
メンバーだけはいつも通り部室に集まっていた。
「……なんか祭りが終わると、先週のことなのに懐かしく感じるね」
「……負けちまったが、冷静に考えれば二位って良い成績だよな。元々言ってた部費について、これで獲得できるのか?」
部長と茜さんの会話の中、僕は部長の撮った写真をノートパソコンを使って厳選していた。
部活動では、毎月の活動報告を書くのも務めらしく、今月は僕に任されてしまった。
「清酒祭の写真をあらためて見ると、推し活部の皆さんとてもいい顔してますね! もっと続けてもいいんじゃないですか?」
「……藤木。清酒祭までって決めただろ? うちらは推し活をする部活なんだよ。逆に推されてどうすんだ」
「……でも」
「おつかれれさまでーす!」
いつも通り明るい挨拶で南部さんが部室に来た。遅く来るのはデフォルトになっていた。
今日は何やら、可愛らしい封筒を持っていた。
「あれ? 南部氏、それなあに?」
「これですか? 廊下にいた子にもらいました! 頑張って下さいとの事で、きっとファンレターです!」
「……マジか……、そんなの貰ってもなぁ……」
◇
一方、職員会議室のこと。
清酒祭が終わり一段落した所で、理事長含めての定例会議が行われていた。
「今年の部活動について、清酒祭での発表を拝見しました。各部活頑張っているようで安心しました。去年と同じく予算を割り当てるで良いかと思います。それぞれ成果を出せるように頑張って下さい」
「理事長、ありがとうございます。本年も頑張りたいと思います」
「よろしくお願いします、教頭先生。そうそう、特に推し活部が良かったですわ。去年までは、ただの吹き溜まりかと思っていましたら、良い活動をなさるのね。うちの子もいい刺激を受けているようでしたのよ。これからも頑張ってください」
「はぁ……。なるほど、推し活部が良かったですか?」
「何も無ければ廃部を決断したいと思いましたが、なかなかの逸材がいますね。是非とも酒姫部のライバルとして、酒姫を目指す活動をお願いしますね。顧問は、山崎先生でしたかしら?」
「は、はい! 分かりました。……そうですよね。何か学校外にも見える形で活動しないと、廃部が待っていますものね。これからの部の存続のためにも酒姫を輩出するよう目指します」
「何も成果を上げないような部活は学校に利益が無いんだ。学校の設備を使うからには、何か成果を上げてもらわないとな。白州先生のところとまではいかなくとも、そうしないとやはり廃部だな、頑張ってくれたまえ」
「……分かりました教頭先生」
◇
「ファンレターなんて今時あるんだな。なになに、私は酒姫が嫌いでしたが、推し活の皆様は私が思っていた酒姫とは違う魅力がありました。特に南部さん。ダンスも酒姫部と比べるとちょっと足りないかなと思いましたが、とても魅力的な笑顔や声で好きになりました。これからも応援しています。推させて下さい。……だってよ」
「私へのファンレターですね! やったー!」
南部さんは素直に喜んで幸せそうにしている。
部長もファンレターを覗き込んで続きを読み始めた。
「これ、茜氏のことも続きに書いてあるね! 酒姫部と違って、カッコイイって! 惚れましただって! やっぱり茜氏は女の子からモテるなぁ」
「……そんなことねぇよ……。って、どっちにしてもいまさらだよ。いつも通りの推し活部に戻るぞ!」
――ガラガラ。
「みんないるかー」
山崎先生が久しぶりに部室にやって来た。
「清酒祭、お疲れ様! 諸君の頑張りのおかげで無事今年の活動は許可もらえたぞ! おめでとう!」
「マジですか!」
「やった! 活動出来るぞー!」
「……ただな、条件付になってしまった。みんなには引き続き酒姫活動をして、全国品評会に出て欲しい。そして、そこで結果を残して欲しい。そうしないとやはりこの部は廃部だそうだ」
「はぁ!?」
「まじですか」
「私は出ない……」
「私は出たいです!」
みんなの反応を気にせずに山崎先生は続ける。
「全国品評会は、夏から予選が始まる。酒姫として本当のデビューを目指して頑張ってくれ! 実際、予選はもう始まっているんだけど、うちの高校は常連校だから予選は一部省略して参加できるんだ」
「……あの、それって、酒姫部が言っていた大会ですか……?」
「そうだな。清酒祭の時に言ってたやつだ。優勝者は、酒姫専用の芸能事務所、いわゆる酒蔵と呼ばれるところに入れる。本当の酒姫デビューができるっていうわけだ。優勝目指して頑張ってくれ!」
「……ってぇと、私たちが本物の酒姫目指すのか?」
「うちの高校の酒姫部は強いが、それでも優勝はなかなかできないんだけどな。とりあえず今は、首の皮一枚だけ繋がってる感じだな。ははは」
山崎先生は相変わらずヘラヘラしていた。
「その中でなんとか勝ち残らないといけない。最終選考まで勝ち抜けばワンチャン、酒蔵からのオファーが来たりもする。酒姫の甲子園みたいなもんだからな」
「ちょっと待ってください、山崎先生! 私たちは推し活をする部活ですよ?」
「そこなんだが、推し活をするだけの部活では廃部だそうで、推し活に貢献する部活を目指せとのことだ。自分たちが推されるように、推しの対象の酒姫になるように活動しろと、獺理事長が言ってな……」
「酒姫部のエース、
茜さんは頭を悩ませていた。そんな中、南部さんが勢いよく席から立ち上がり話し始めた。
「皆さん、ここまで来てやめるんですか? 私、推し活がしてみたかったですが、推される方も悪くないと思いました! 応援してくれる人がいるステージはとても暖かくて、ステージから見るペンライト、とても綺麗でした。応援してくれる人の顔も見えて、皆さん楽しそうに笑っていました。 喜んでました」
「……それはそうだけど」
「推し活をする人の気持ちが分かる茜さん 泡波さん。今から推したいと思った人がいきなりいなくなったらどんな気持ちですか?」
茜さんも、泡波さんも黙って下を向いてしまった。
「茜氏。可愛かったよ。僕も茜氏が輝いているところをもっと見たい」
「……僕ももっと南部さんをもっと推したいです」
――ガラガラガラ。
再び部室のドアが開くと、白小路さんが立っていた。
「
白小路さんの登場がトドメになったようで、酒姫活動を中断させようとしていた茜さんと泡波さんは、諦めたように言った。
「……わかったよ。やってやればいいんでしょ!」
「……私もやります」
南部さんと僕は目を見合わせて喜んだ。
部長も1人で小躍りしながら喜んでいた。
「ふう、良かった、良かった。獺理事長怖いからね。とりあえず酒姫目指して、みんな頑張ってね! 部長、藤木、成果を残せるよう、後は頼んだ!」
山崎先生は言いたいことだけ言うと職員室に戻って行ってしまった。
「……やれやれだな」
……そんなことを言っているが、なんだかんだ、みんな酒姫活動がしたかったのだと思う。嫌がってたはずなのに、どこかワクワクしたような、楽しい遊びの時間がまだ終わらないとわかった子供のように明るい表情になっていた。
「じゃあみんな、推し活部は方向を新たに再始動だね。白小路さんも加わった事だし、せっかくだから円陣を組もう!」
「はい!」
「なんでだよ……」
「いいからいいから!」
白小路さんも入れた6名で円陣を組んだ。
「よし! これからの酒姫部の存続をかけて 酒姫目指して全国品評会へ向けて頑張るぞー!」
「えいえいおーー!」
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