本祭1日目
1次会 豊作を祈願する
推し活部の面々は今日も部室に集まっていた。
全国品評会へ参加表明をしたはいいが、まだ本戦の大会概要が発表されていないらしく、部室に集まってはみたものの、各々好きな推し活をして過ごしている。
そんな中で、僕は今月分の部活動の報告書の続きを書いていた。
「藤木君、この写真いいじゃないですか。これ、私が可愛く写っていますよ! 使ってくださいよー」
「南部さんも良いとは思うけど、個人部門で入賞した泡波さんと白小路さん二人がメインにした方が理事長へのアピールになると思うんだ」
「なんですかそれ。ケチですね。私をもっと推してくださいよー」
「南部さんの写真は、ここにありすよ。ほら。二番目に大きな写真です」
「……これ可愛くないですよ。宣戦布告して指さしてるところ……。私笑ってないじゃないですかー」
「南部さん、自分自身では気づいてないかもしれないですが、これはとても良い写真なんですよ。推しの笑顔も良いですが、いつも見れない推しの表情というのは、ファンがとても求めていまして、この南部さんはなかなか見れない――」
――ガラガラガラ。
「……はぁはぁ。みんな! 今年の全国品評会の要綱、人数分持ってきたよ! 酒姫仲間から融通利かせて正式配布よりも早くもらったんだ」
「おお! さすが、クロ! でかした!」
……部長はいったい何者なんだろう。どんなつてがあるのだろう……。
……南部さんとの報告書作成タイムが終わってしまった。しょうがない。
「今年の品評会、ファーストステージと決勝ステージと2つに選考が分かれているらしいよ。酒姫を総合的に判断したいからって理由らしくて、ファーストステージには5つの演目が用意されているってさ。そこで総合評価が高かったチームが決勝ステージに行くらしい」
部長が要綱を配りながら、全国品評会の概要を説明してくれた。
要綱には、前回大会の様子だろうか、高校生くらいの酒姫が印刷されていた。
とても真剣な表情。
山崎先生の言っていた、甲子園のようなものというのが分かってきた。
酒姫達は夏から秋にかけて、この大会にすべてを費やすのだろう。
それが伝わる表紙であった。
茜さんと、泡波さんは見慣れているのか、すいすいと目当てのページを読み始めた。
「なるほど。これって、5つも異なるジャンルの曲やるってことか? マジか……」
「……これ、なかなか厳しい。私たちが清酒祭でやってたのはポップだけだから、それ以外に4曲分も練習しないと……」
僕もすぐに読み進めて、要綱の該当箇所の確認した。
「ええっと、演目は、ロック、ポップ、バラード、ジャズ、ヒップホップの5つでしょうか。なかなか、多岐にわたっていますね……」
部長は持っている要項の付箋を貼ってあったページを開いて、見せてきた。
「あとね、今回は3人グループでのオーディションらしいんだ。毎回大会で求められるグループ人数は変わっているんだけど、ちょうど3人なんだ。今まで通り3人の体制で進められるね」
部長の言葉に泡波さんが反応して、白小路さんを見つめていた。
「……私は大丈夫だよ。レイを応援するためにいるから」
白小路さんは、少し寂しそうであったが、こればかりは仕方がない……。
「5曲分か……。気持ち切り替えて、しっかり練習するしかねぇな。少しでも早く分かってて良かった。クロ、ありがとな」
「いえいえいえいえ、オイラは大したことしてないよ」
茜さんに褒められた部長は、後ろを向いて見られないようにガッツポーズを決めて嬉しがっていた。
「……役に立った。立った。褒められた。嬉しい。嬉しい!」
……部長は心の声が出てしまう人間らしい。聞かなかったことにしてあげよう……。
「そしたら、早速練習に入るか? それよりも前にまずは作戦会議するか?」
茜さんの発言に、新メンバーの白小路さんが意見したいようで手を挙げて話したいアピールをしている。
「シ、なにか意見があるから気にせずに言っていいよ」
「はい。茜さん、割り込んでしまって申し訳ないのですが、何よりもまずは必勝祈願をした方が良いと思います」
「……なんだそりゃ?」
「酒姫部では毎年しているんですよ。茜さんも泡波さんもそれやる前に辞めてしまったので知らないと思います。一人でも多く酒姫になれるよう、豊作祈願と一緒に稲を植えるんです」
「ますます分からなくないぞ……」
茜さんは頭を抱えてしまった。
「酒姫誕生の言い伝えがある品種の稲を植えるんです。部活動紹介で推し活部でもやられていたあれです。体育館脇にある小さい花壇の隣り、稲を植えるスペースがあります。正式に酒姫目指すと認められているので、そちらを使って良いと白州先生も獺部長も言っていました」
「あれか? 昔稲刈りの翁が育てていたってやつ。藤木と南部好きだったよな? せっかくだから、そういうものにもあやかるか」
「はい! 是非やりましょう! 部長、活動報告用の写真、よろしくお願いします」
◇
外へ出ると、初夏の日差しが暑かった。
校舎の外周を走る運動部を避けて、体育館へと向かう。
新入部員も馴染んだ頃だろう。
ランニングの声出しも揃って走っていった。
体育館まで来ると中からは酒姫部の曲や白州先生の怒声が聞こえてきた。
「相変わらずだな、白州先生。そういえシロは酒姫部に出ないのか?」
「私は、あまり出られる枠が無いからね……全然レイのせいじゃないからね。私の実力の問題。こっちの推し活部でレイを推す方が楽しいしね!」
「……ありがとう」
泡波さんは顔を赤らめている。
暑い陽気がそうさせるのだろうか?
「ここだよ。ここに植えるの」
既に酒姫部は植えた後のようで、稲に名札が括り付けられていた。
「こんな風に自分の稲に目印付けて、体育館で練習する時には見に来るの。それで、稲の成長を見て、自分も成長してるって思って大変な練習も乗り切るの。秋の大会が終わる頃には上手く育てば金色の稲が出来て、酒姫への1歩が踏み出せたって思えるんだ……私は途中サボってしまって、上手くいかなかったけど……」
「……じゃあ、シロももう1回やろう。みんなで植えようぜ! 藤木も部長も自分の分植えよう」
植え付け用に育ててある数が苗もあったため、それを手に取って植える
「酒姫になれるように、皆さんのように前向きな苗にしましたよ! どうか、みんなが酒姫になれますように!」
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