6次会 後夜祭
「それでは、結果発表です! 栄えある第一位は……」
スポットライトが1度消える。
「……一位は、酒姫部! 純米吟嬢です!」
スポットライトは純米吟嬢チームにあたり、会場からは割れんばかりの拍手が鳴った。
酒姫部の人たちは嬉しそうというよりも、安心したような顔つきであった。
「続いて第二位は……、大健闘! 初出場の推し活部です!」
推し活部にも拍手が送られた。
「……くそ」
「茜さん、2位ですよ!? 他の酒姫部のチームには勝てましたね!」
「あいつらに勝ちたかった……」
3位以降も順位が発表されたが、酒姫部の人達は推し活部に負けたことがとても悔しそうだった。
「それでは、順番にコメント頂きましょう! まずは1位のチームからどうぞ!」
司会者からマイクを渡されて、獺さんが答える。
「私たちを選んでくれてありがとうございます。皆さんの1番に選んで貰えたと受け取ります。ありがとうございました。これからも、さらに歌にダンスに磨きをかけたいと思います」
純米吟嬢チームが頭を下げると、拍手と一緒に応援の声も聞こえた。
「これからも頑張ってー!」
「応援してるよー!」
拍手が鳴り止むと、獺さんは続けた。
「二位の推し活部の皆様、これが酒姫部です。遊びでなんてやっていません。ファンがたくさんいる。長年活動してきているんです、ぽっと出てきたあなたたちに負けるわけがない!」
語尾を強めて、こちらにかなり敵意を持っているようであった。
「……ただ、あなたたちのパフォーマンスも素晴らしかったです。この2ヶ月の間で頑張ったのだと思います。今度は校内を飛び出して、本当のオーディション、全国品評会で戦いたいですわね」
会場がザワついた。
「あのプライドの高い獺さんが人を褒めるなんて、今まであったか……?」
「推し活部を認めているのか……?」
獺さんは続けた。
「負けて悔しい思いがあるなら、出ると良いでしょう。私たちは全国品評会で待ってますわ。勝ち上がってきなさい!」
獺さんのスピーチに会場がさらにザワついた。
「これは、推し活部をライバルと認めたってことか?」
「ありえない。どういうこと?」
「獺さん、ありがとうございました。会場の皆様お静かにお願いします。続けて、二位のコメントをお願いします」
茜さんにマイクが向けられた。
「一位になれなかったこと、とても悔しいです。酒姫部の皆さんは、毎日頑張っているんだと思います。後から同じように練習しても勝てないですよね。けれども、二位になれたので良かったです。私たちを応援してくださった方、ありがとうございました!」
2位のチームでもちゃんと拍手が送られた。
拍手が止むのを待って茜さんは続ける。
「全国品評会で待っていると言われましても、それは酒姫部の皆様で頑張ってください。私たちはここまでの――」
「茜さん!」
南部さんは、茜さんからマイクを奪い取った。
「初めまして、南部と申します。獺さん、八海さん、久保田さん、とても素晴らしいパフォーマンスでした! 私たちをライバルとしてみてくれているってことですよね? そう思って下さるなら、その気持ちに答えるまでです! 今度は絶対に負けませんよ!」
会場がどよめいた。
「こんな、ぽっと出てきた私たちを推してくれる人がいる。その人たちの期待に応えるためにも、私たちも全国品評会に参加します!」
「おおぉーー!」
「頑張ってー!」
「歌にダンスに磨きをかけて待っていて下さい。こちらは今のままでは足りない。もっともっと深い味わいを出せるように、熟成させて倒しに行きます!」
「おいおい、南部何を言っているんだ……」
「私たちは、本当の酒姫になります! 全国品評会であらためて勝負です!」
南部さんは、獺さんの方に向けて指をさした。
冷たい表情しか見せたことがない獺さんの顔が少し緩んだ気がした。
「……ごめんなさい。コメント終わってください。ありがとうございました」
茜さんが無理やり終えて推し活部は舞台袖へと戻ってきた。
「何言ってんだよバカ! 私たちは清酒祭までもチームだって言ったろ!」
茜さんが南部さんに怒りながら、舞台袖から体育館を出て行ってしまった。
そんな中、泡波さんは南部さんの発言が耳に入っていなかったのか、まるで反応が無かった。いつになく真剣な表情をしていた。
「次は個人戦……、ケジメをつける」
「……個人戦。……張って下さい泡波さん」
部長も出ていってしまったが、僕1人でも見届けることにした。
「引き続き、酒姫コンテスト個人戦てす! 個人戦につきまして、例年よりも出場者が多いため、組み分けをして複数人でパフォーマンスを披露してもらいます!」
異例の対応のようで、会場はザワついていた。
「個人戦では、共通の課題曲を踊るので問題は無いけど……」
「間延びするよりもいいか……」
発表された順番では、泡波さんは2番目のようだった。白小路さんもなんの因果か、同じ2番目であった。
「どれだけ本気で練習してたのか。同じステージなら比べやすいわね。勝負よ!」
「うん」
白小路さんと泡波さんが話していたため、僕はステージ袖から出て、ステージの正面へと移動した。
部長が置いていったごついカメラがステージ裏にあったので、せっかくなら撮っておこうと持ち歩いた。
端の方しか前列は空いてなかったので、そこでカメラを構える。
2回目のステージになり、酒姫達が並んだが、ちょうど僕のいる前に泡波さんと白小路さんは端の方に隣に並んだ。
曲が始まる前のポーズを取って止まっている。
曲が流れる前、会場は静まり返り、泡波さんと白小路さんが会話するのが聞こえた。
「……あの時はごめんなさい。勝手に逃げて……」
「……私もいつまでも避けててごめんなさい……」
曲が始まる直前の会話であった。本音のやり取りの後、2人の表情が一気に明るくなった。
ステージ上では、2人以外にも酒姫部の1年生が踊り始めたが、端の2人だけがレベルが違っていた。
泡波さんは、練習の時よりも生き生きとしていた。白小路さんも練習で見た時とは違い、とても清々しい笑顔で踊っていた
そんな2人を一生懸命カメラで追った。
2人とも、部活をやめて交流が無いと言っていたが、今でも息ぴったりで、動きがとても揃って見えた。
動きの癖も含めて、2人で組んでいたユニットがとても良いものだったことが伝わってきた。
2人の生き生きとした表情を写真に収めることが出来た。
曲が終わる。
「……また一緒に踊れてよかった。レイ、ありがとう」
「……私の方こそ」
2人の笑顔は曲が終わっても、いつまでも咲き続けていた。
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