5次会 ‌清酒祭

「やきそばいかがですかー」

「クレープもありますよー」


 ‌飾賑やかな校舎の中では、模擬店が盛況であった。その中を通って、部室へと向かった。



「おはようございます」


 部室のドアを開けると、不機嫌そうなメイドが二人いた。


「遅いぞ、藤木!」

「……あれ? お二人ともなんでメイド服なんですか……?」


 茜さんと泡波さんは、白と黒を基調としたメイド服に身を包み、とても可愛らしかった。

 ただ、足を組んでいて、表情は怒っている感じであまりメイドっぽさを感じなかった。


「推し活部が優先って言って、クラスの出し物は途中で抜けてきたのに、みんな遅い!」


 なかなか見れないだろう茜さんと泡波さんのメイド服姿がこんな所で見れるとは……。

 ……そう思っているのは僕だけではないようで、部長はカメラを向けて連写していた。


「茜氏笑って笑って! 泡波氏も!」


 きっと、二人はこれにも腹を立てているのだろう。全くカメラの方を向かずに怒っているようであった。



「おつかれさまでーす!」

 南部さんが遅れてやってきた。


「メイドさん! ‌可愛い! 茜さん、泡波さん!」

「……もうそれはいいから、みんな揃ったから行くぞ!」


「あれ、私待ちだったのですね、遅れてすいません。そうしましたら、頑張っていきましょう!」


 ‌南部さんはどんな状況でもマイペースであった。度胸が座っているというのか?


「練習はいっぱいしたんです! ‌私たちでやってやりましょう!」

「お前が言うな!」


 ‌僕達は会場の体育館へと向かった。


 ‌◇


 ‌体育館の中は明かりが消されて、ステージにスポットライトが当たり、吹奏楽部による演奏が行われている。


 ステージの‌舞台袖に、僕たち推し活部は待機をしていた。舞台袖から客席が少し見える。


「……こんなに大勢の前でやるんですね……」

 ‌さすがの南部さんも少し緊張しているようであった。


「お客さんがいっぱいとかは関係無いよ。茜氏、泡波氏、南部氏。みんな、今日のために一生懸命練習したんだ! ‌悔いの無いようにやろう!」


「昨日の前夜祭で見たが、酒姫部は思ってるよりも仕上がってる。勝てるかどうかなんて考えずに、練習の通り行くぞ!」


 ‌部長と茜さんから、エールが送られた。



「大丈夫。負けない」

「私も、ものすごく頑張ったので大丈夫です!」


 ‌泡波さんと南部さんは、エールに答える。


「皆さんの頑張り、毎日見てました。あんなにも練習したんです! ‌必ず上手くいきます! 頑張って下さい‌!」


 ‌誰からともなく、片手を前に出して重ね合わせた。


「推し活部の力を見せてやろう! ‌推し活部ファイトー!」

「おーー!」





 ‌ステージ上では前の出番であった、吹奏楽部の片付けが終わり、司会者が進行を始めた。


「それでは皆様お待たせしました。清酒祭の酒姫コンテストの時間です!」


 ‌会場から拍手が沸いた。

 ‌拍手鳴り止まぬ中、司会者は続けた。


「今年は酒姫部以外からも参加部活がありました。最初に登場するのは、推し活部の皆さんです!」


 紹介を受けて、3人はステージ中央へと向かった。眩いスポットライトの中、不安な表情で出ていった。緊張している様子がとても伝わってきた。


「皆さん初めまして。私たち推し活部のステージを見て行ってください!」


 ‌拍手が鳴りやむまで、曲の最初のポーズで構えて待っている。


 ‌……頑張って下さい。



 ‌音楽が鳴り始めた。

 ‌イントロが流れると、緊張していた様子が段々と解けてきて、いつものダンスを踊れていた。

 ‌むしろ、いつも以上に切れがあった。


 ‌「♪――まだ、熱い気持ちを知らないから――」


 ‌声もしっかり出て歌えている。

 今まで見た中で、一番クオリティが高かった。

 ‌全員の息が揃っていて、昨日見た酒姫部にも引けをとらない出来だった。


 ‌曲が終わると同時に、大きな歓声が上がった。

ステージ袖へと帰ってくる。

 ‌とても清々しい顔をしていた。


「とても良かったです! ‌最高でした!」

「みんなすごかったよ! ‌お客さんも喜んでいるよ!」


 ‌みんなでハイタッチをして、労をねぎらう。

「やり切ったな。……あとは、相手次第だ……」



 ‌司会の人が続きを進行し始めた。

「次は、酒姫部のチーム名、"純米吟嬢"になります。どうぞー!」


 ‌酒姫部も3人構成となっていた。

 ‌曲が始まると、いつになく激しいダンスが始まった。

 ‌‌前夜祭で見たステージとはまるで違った。

 ‌昨日のステージはグループ全員が揃ってダンスが素晴らしかったが、今日のは人数が少ない分1人1人の動きが良く見える。


 ‌ダンスの切れがまるで違う。

 ‌磨き抜かれた動き。

 ‌無駄な部分が一切ない。緩急もしっかりしている。


 ‌3人だけのグルーブになったことで、早い動きもぴったりと合っている。


 ‌歌も上手い。

 ‌パートごとに歌って交代している。歌唱力が桁違いだった。


 ‌舞台袖からでも、レベルの違いがはっきりと分かった。演じていた本人達なら尚更分かるだろう。


「……まだわからないよ、みんな」

 酒姫部のパフォーマンスに沈んだ雰囲気になる。 

 ‌部長がみんなを励ましてくれる。

 ‌ステージに見とれているうちに曲が終わってしまった。


「ありがとうございました!」

 ‌酒姫部のステージが終わった。



「……昨日よりももっと洗練されていた……。これが酒姫部なのですね……」


 ‌酒姫部の人達が舞台袖へと掃けてきたが、こちらに言葉を交わすことなく、素通りで去っていった。


 ‌その後、酒姫部からは複数エントリーされていたため、何組か曲が披露された。

 ‌どのチームも洗練されたが、相変わらず表情が硬いのが印象的だった。


 ‌◇


 ‌最後のチームの演目が終わり、投票が行われる流れになった。ステージの上に全てのチームが並び、その前に投票箱が置かれた。

 ‌それぞれのチームが自分達を推してくれるように呼びかける中、生徒たちが投票をしていく。


「投票お願いします!」


 ‌次々と生徒達が投票に来る。

「いつも応援してます! ‌久保田さん!」

「ありがとうございます」


「今回が1番良かったです! ‌八海さん!」

「いつもいつも、ありがとうございます」


 ‌どこかの握手会のようにに話しかけて、投票して行く。



「……酒姫部、人気ですね。……推し活部に投票してくれる方、あまりいないんですかね……」

「……そうかもな。酒姫部は元々人気だもんな……」


 ‌そう言っていると、女子が一人来た。

「はじめまして。推し活部、とても良かったです。ファンになりました! ‌頑張って下さい!」

「あ、ありがとう」


 ‌酒姫部の方は熱心なファンが我先にと投票に来ていたようで、酒姫部ばかりが投票されているように見えたが、推し活部には意外と女子票が集まっているように見えた。

 ‌酒姫部は女子から人気が無いようであった。


 ‌投票が終わると、すぐに集計が始められた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る