6次会 駆けつけ一杯は濃いめのウィスキー

 ――コツコツコツ

 廊下から歩く音が聞こえた。

 部室のドアが開いた。


「おーす! どうだー? 新入部員は集まったかー?」


 白髪交じりの茶髪。

 黒の四角い眼鏡をかけた顔。

 茶色いジャケットを着けて、落ち着いた雰囲気のある渋めオジさんがやってきた。

 


「あ、山崎やまざき先生!」


「こちら顧問の山崎先生」

 茜さんが紹介してくれる。


「今年の新入部員は2人かー。ギリギリだな。うちの高校には酒姫部があるから、どうしてもそっちに流れちゃうよなー……」


 山崎先生はポリポリと頭を掻きながら言った。

 言い終わった後に、見定めるように新入部員の僕と南部さんをじっくり見た。


「あれ? 君は推し活部なの? 酒姫部ではないんだ?」


「はい! 私は酒姫を推したい方の人です」



 南部さんがはっきりと答えるが、茜さんがさえぎって話を奪う。


「そう言ってますけど、今年の活動目標として、この子南部さんを立派な酒姫になるように推すことをメイン活動として、部費申請のネタにしようと思っています!」


「へぇー?……え? プロデュースする?」

 山崎先生の目が丸くなった。


「あはははは! それはいい! お前達らしいな! 推し活部自ら推しを作る! それは面白い! いい活動じゃないか!」

 山崎先生は寛容な人のようだった。



「……まぁ、そしたら酒姫部と戦争になるな……。酒姫部の顧問の白州はくしゅうちゃんのところに文句言われそうだな……。まぁいいか! ちょっと酒姫部に宣戦布告ついでに、同年代の酒姫を目指す子たちがどんな様子か見に行ってみるか」

 渋めの印象とは裏腹に、その場の勢いだけで生きてそうな人柄を感じさせる。



「……酒姫部……。先生、私はパスします」

 茜さんは浮かない顔になった。


「あれ、茜さん、どうかしたんですか? 酒姫好きじゃないですか? 酒姫部の方が好きじゃないんですか?」


 南部さんは遠慮なく、ずけずけと聞く。

 意外と南部さんは度胸がある方かもしれない。


「まぁまぁ、そんな顔するな霧島。1年のころ少しだけ酒姫部に入っていただろ? ‌まだその頃のこと引きずってるのか?」

「え、そうなんですか!?」



「山崎先生! そういうのは言わなくていいです。今は何の関係もありません。私は推す方になったんです」


「そうか? 今でも十分踊れているだろ。推す方でも構わないが、ずっと逃げているのも良くないぞ?」


 茜さんの顔は晴れなかった。


「一旦、義理を通して置かないとだろ。酒姫部と活動が被るところも出てくるし、副部長だろ?」



「先生! 部長である僕も行きたいです。たけど、僕は酒姫部に出入り禁止と言われていまして、どうすればよいでしょうか? 僕が行ったら、確実に罵られておずおずと帰ってくることになります!」


 ……部長、 あなたはそんな域に達しているのですね。

 ‌何をすれば出入り禁止になるのか……。


「ああそうか! それも含めて交渉しに行ってみるか。部長と副部長揃ってご挨拶しよう」


「……はい」

「おいっす」



「そうそう、新入り君。酒姫のプロデュースの話を持ってきたのは、君だろ?この二人が言うわけないもんな」


「……えっと、その通りです。」


「君も一緒に行って、 白州ちゃんの酒姫のプロデュース活動を見ると良い。やりたいと思っているだけで、できるほど甘い世界では無いよ。それを間近で感じて欲しい。君にとっての初めの一歩かもしれない」


「……わかりました」



「よし! みんなの勉強になる。行ってみよう!」


 いきなり出てきた話に、少し腰が重かった。

 山崎先生の明るい声とは裏腹に、重い空気が流れた。



「先生、私も行きたいです!」




 飾らない南部さんの元気な声が、部屋の雰囲気を明るく包んだ。


「おー! 南部は素直で良いな! 酒姫は等身大であることが一番の魅力だからな、南部は酒姫に向ているな!」

「……いや、 私は酒姫志望ではないのですが」


「大丈夫!  君なら酒姫になれる。素質がある。先生も推しちゃうよ!」

「いやいやいやいや……なぜみんな私を推すのですか……。私は酒姫を推したい人なのに……」

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