第10話 乙女の会話
「出たわよ〜って寝てる!?」
バスタオルをスタイルの良い身体に巻き付けてシアはシャワーから出てきた。
「すぴー、すぴー」
寝息をはくレオンの顔をヴァイオレットは覗き込んだ。
「ほんとだ。さっきまで起きてたはずなのに……」
それもそのはず、シャワールームから出てきたシアの姿を視界に捉えた瞬間、レオンは自身に状態異常系統の魔法である【
「一応、心の準備はしてきたのに無駄になっちゃったわ」
残念そうにあるいは何処か安心したようにシアはベッドに腰を下ろした。
「シアは師匠のことが好き……?」
「私だけ答えるのは不平等じゃないかしら?」
それもそうかとヴァイオレットは頷いた。
「私にとってレオンはあくまでも師匠、師匠のことは気になるけどそれは恋愛ではなくて多分、師匠の魔法とそれを操る師匠への知的好奇心によるもの」
ヴァイオレットは端的に、それでいて少しばかり饒舌に言った。
「私は言った。私だけ言うのは不公平、次はシアの番」
ヴァイオレットはシアの言葉を逆手にとって引くに引けない状況を作ったのだった。
「ヴァイオレットって本当に貴族のご令嬢なのかしら?」
「私のことをいきなり呼び捨てにするシアの胆力も本当に平民なのか疑わしい」
互いにそう言葉をかわすと二人は笑いあった。
「そうね、ヴァイオレットとはこの際長い付き合いになるだろうから質問には答えるわ」
シアは言葉を区切ると一息ついた。
「窮地のときに助けてくれた男の子、そして才能もあって世間知らずで可愛いところもある。好きにならない方がおかしくない?」
シアは、顔を赤らめながら内心を吐露した。
「師匠の場合は世間知らずじゃなくて常識知らずだと思う……」
ヴァイオレットの的確なツッコミにシアは微笑んだ。
「なら、私がレオンに一生かけて常識を教えていくわ」
「恋が叶う前から、一生付き添うってちょっと重いかも……?」
ヴァイオレットの指摘にシアは、それまで以上にボンッと顔を赤らめた。
「そ、それくらいの心意気ってことよ!」
「……もしかしてそれが理由で前の人とは別れちゃった?」
「その察しの良さ、私だけに発揮するのやめてくれる?」
「ごめん、反応見てると楽しくてついつい」
「ねぇ、本当に十五歳の貴族令嬢なの?」
「シアは本当に大人でしかも二十歳なの?」
二人は互いにらしくない部分を口にすると、眠っているレオンの顔を覗き込んだ。
「あんなに強いレオンも寝てるときは無防備で可愛いのね」
「オマケに実力はあって、私にとっては可愛い。年齢差もあるのに好きになってしまうのは仕方ないのかも」
シアとレオンの年の差はおよそ9歳、ざっと一回りはある。
「生き遅れにならないようにって気にしてる部分は確かにあるかも……でもそれだけじゃなくて、一目惚れしちゃったから……」
最後の方は乙女のような仕草と言葉だった。
「ふふっ」
それに気付いたヴァイオレットが笑みをこぼすと
「な、何よ!?」
自分が今、どんなふうにものを言っていたのかを悟ったシアは、恥ずかしさを紛らわせるように言った。
「女の人っていうのはいつまでたっても何処かで乙女な部分を残しているんだなって……羨ましい」
茶化すような言葉とは裏腹にヴァイオレットの顔は物憂げだった。
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