第7話 指名依頼
「ふん、まさか俺たちが人間に雇われるとはな……」
夜も更けた王都城壁内の路地裏、黒いフードを目深に被った二人組が、まるで顔を見られたくないかのように俯きながら歩いていた。
「まぁいいじゃあねぇか、人族同士で争ってくれるなら俺たちにも都合がいいじゃあねぇか」
「そうだな、いずれ訪れる我々の時代の礎になってもらうのだからな」
彼らは魔族だった。
もちろん彼らの言葉は魔族の総意ではなく急進派の派閥の策謀だった。
人族同士を争わせ弱体化させ、そこに攻め込むという基本戦略の元、彼らは工作員として送り込まれていたのだった。
「とりあえずこの辺りでいいか?」
「そうだな、広さは十分だろう」
そして二人は召喚魔法を唱えた。
「「【
すると十字路の幅一杯に魔法陣が浮かび上がった。
魔力を注ぎ始めるとそれは緑から赤、やがて
魔術にも得意とする魔法属性がある場合があり、召喚魔法をそれに合わせることで召喚される魔獣はより強力なものになる。
彼らの召喚するのは闇属性のものらしかった。
「あとは隠すだけだな」
「おうよ!」
一人が魔法陣の刻まれた紙を取り出すと【
それは魔法を隠蔽するもので、十分量の魔力を注ぎ込むと紙は塵へと変わり、紙に刻まれた魔法陣が浮かび上がったところで【
◆❖◇◇❖◆
「おはようございます」
翌朝、冒険者登録をするべくギルドへと向かった。
昨日の受付嬢が応対しており、僕もそこの列に並んだ。
やがて僕の番になると
「レオンくんですね。君に渡すべきものと言伝を預かっております」
僕が用件を言うよりも早く受付嬢の方から切り出してきた。
カウンターの上に受付嬢が出したのは、シルバーのカードと一枚の用紙だった。
「貴方の年齢は11歳だとお聞きしています。ですが今回、ドラゴンを単独討伐するその技量を見込んで特例でB級冒険者とします。これはB級冒険者の証明であるギルドカードです」
渡されたシルバーのカードには、僕の名前と職業が魔剣士と刻まれていた。
「凄いじゃない!?」
「さすが師匠」
あとを着いてきたシアとヴァイオレットがカードを見つめて口々に言った。
「凄いのですか?」
ギルドの冒険者ランクの事なとさっぱり知らないのでそう訊くとヴァイオレットが教えてくれた。
「飛び級でB級からスタートした冒険者は史上類を見ない。B級から上は昇級審査があるけどB級の昇級審査も受けてない」
なるほど、ベテランの冒険者と同じくらいには期待されているということなのかな?
とりあえずそう理解しておくことにした。
「で、ギルド支部長からの
渡された紙にはこう書かれていた。
『B級冒険者レオンは、S級冒険者ヴァイオレット・ロレーヌ、B級冒険者シアと共にパーティを組み、
これは非常に大事な依頼だと思うけど……僕なんかに頼んでもいいのだろうか……?
「僕は駆け出し冒険者ですよ?」
本当に僕に任せていい依頼なのか?と言外に尋ねると受付嬢は頷いた。
「貴方に期待している、そういうことなのです。というよりも他に送り込んだA級冒険者が消息を絶っており、他にうちから送り出せるのは貴方たちぐらいなのです」
なるほど、既に人がいないというのが理由なのか。
「実は私も昨日、屋敷で遺書を書いてきた」
「貴族の令嬢を送り出すってのはそういうことなのね……」
えっ……ヴァイオレットって貴族だったの……?
「昨日、この街に来たばかりの師匠が知らないのは無理はない。これでも私は侯爵令嬢」
爵位というものがどういうものかは、ウィルヘルミナに教わったので知っているつもりだ。
侯爵ともなれば上位の貴族であるわけで……
「なぜ、侯爵令嬢のヴァイオレットが冒険者をしているんだ?」
という疑問が浮かぶわけだ。
「私の上には二人の兄がいるから継承権は無いも同然、それだったら他の道で民草の役に立とうと思った」
「貴族の模範みたいね」
シアが目を見開いて驚きの表情を浮かべた。
つまりは、ヴァイオレットのような貴族は稀だということなのだろう。
「わかりました。二人がそれでいいと言ってくれるなら、ゼムスト大森林に向かおうと思います」
二人を交互に窺うと
「私は行くわよ、なんてったってB級冒険者だしね!」
「私も貴族として成すべきことをするまで」
二人とも一緒に行ってくれるらしい。
「依頼の成功を祈ります」
受付嬢は、交通費と食費だと言って数枚の金貨を持たせてくれたのだった。
「こんなにもらって大丈夫なの?」
シアの質問に受付嬢は笑って答えた。
「経費で落ちますから!!」
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