第4話 少年、ギルドへ

 「チキショー、逆鱗に触れちまったか?」


 帰らずの森の中、四人のB級冒険者たちはレッドドラゴンに睨まれ身動きできなくなっていた。


 「やっぱり俺らじゃA級昇格無理だったか……」

 「諦めるんじゃないわよ!」


 広大な帰らずの森を逃げ回った彼らに残された体力はもう僅かだった。


 「シア、カタリナあと何回魔法使える?」

 「中級魔法であと一回よ……」

 「私も【回復ヒール】二回が限界かも……。


 シアと呼ばれた魔術師は襤褸になりかけたローブを取り払った。

 盾役も既に肩で息をしている状態である以上、やはり限界が近かった。


 「クソっ……こんなところで終われねぇよっ!」


 リーダーの剣士は毒吐くと、勇気を振り絞ってレッドドラゴンを睨みつけた。

だが次の瞬間、空から降り注いだ一条の光線がドラゴンを貫いた。


 「Graaaaaaaa!!」


 腹に響く絶鳴とともにドラゴンは沈黙を余儀なくされた。

 「何が起きたの!?」

 「助けられたのか!?」


 ドラゴンが倒れて巻き上がった土煙に彼らは状況を把握することが出来なかった。

 やがて煙が晴れた頃、彼らの瞳が一人の少年の姿を捉えた。


 「本当にこんなドラゴンで生活費を稼げるのかな……?」


 ◆❖◇◇❖◆


 とりあえずレッドドラゴンを空間収納で仕舞いこんだ。

 ウィルヘルミナと暮らしていた場所では、ドラゴンなど見飽きるほど生息していたために、さして価値があるようには見えない。


 「い、今のはお前の魔法なのか……?」


 さっきまで襲われていた人が話しかけてきた。


 「そうですけど……ひょっとしてドラゴン貰っちゃったのがマズかったですか……?」


 ひょっとしてドラゴン討伐を邪魔したことに怒ってるのだろうか。

 そう思って訊いたがどうやらそうでも無いらしい。


 「今のは君の魔法なの!?」


 魔杖を手にした女性が尋ねてきた。


 「さっきのは【氷槍蒼穿アイススピアー】という上級魔法ですが……」


 水属性の魔法でレッドドラゴンの核を貫き、無力化したのだ。

 ちなみに肉体は凍らせたので冷凍状態で空間収納されているから保存状態は良好だろう。

 説明すると女魔術師は俺の手を両手で掴むと言った。


 「弟子にしてくれないかしら!?」

 

 え……?

 ついこないだまでウィルヘルミナの弟子だった僕が、誰かの師匠になるのか?


 「無理ですよ……僕なんて超級魔法までしか使えないですし……それにまだ11歳ですよ?」

 

 その言葉に先程までよりも強く女魔術師は俺の手を強く握った。


 「超級魔法まで使えるの!?一生に一度の我儘だから私の師匠になってよ!!」


 ここでようやく僕は気付いた。

 ウィルヘルミナとニナベルさんは、余りにも人間からかけ離れた実力を持っているのだと……。

 

 「わ、わかったから僕の手を話してくれないかな……痛いよ?」

 「ご、ごめん!!手を離したら逃げられそうな気がして……」


 レオン11歳、早くも弟子を持つことになりました――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「ここがギルドよ」


 道中でであった四人組は『アヴァンギャルド』というパーティだそうだ。


 「あら、可愛い子ですねー。今日はどうしたんですか?」

 

 カウンターに向かうと受付嬢が応対してくれた。


 「アヴァンギャルドの皆さんの案内で来たんですが、素材の換金をお願いしたくて」

 「いいですけど……実物をお店いただかないと……」


 レッドドラゴンは、到底この部屋に収まるものじゃない。


 「どこか広いところに案内して貰えませんか?」

 「いいですけど……」


 どこか疑わしそうな顔でこちらを見つめる受付嬢の後に続いてやってきたのはギルドに併設されている訓練場だった。


 「『空間収納』――レッドドラゴン」


 部屋に突如として現れたレッドドラゴンに受付嬢は沈黙した。


 「これの換金をお願いしたくて……もしかして核を貫いちゃったから買取して貰えないのでしょうか……?」


 ここに来るまでの間に出会った魔獣の中で一番価値がありそうなのがこのレッドドラゴンなのだが、これの買取を断られてしまうと今夜のご飯も心配になる有様なのだ。


 「消失魔法ロストマジックにレッドドラゴン……?しかもこの管理状態の良さ……」


 受付嬢は、うわ言のように何やら呟いていて僕の話を聞いてくれているのかは謎。


 「あの、買取は……?」


 もう一度尋ねると我に戻ったのか受付嬢と視線が合った。


 「は、はい!直ちに鑑定士を呼ぶので暫しの間、お待ちを!!」


 よかったぁ……これでちょっとはお金の心配しなくて済むのかな……?

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