第3話 旅立ちの朝

 そんなこんなで月日はあっという間に流れ十一歳の冬を迎えた。


 「私が教えてやれることはもうない」


 ウィルヘルミナの言葉にニナベルさんも頷いた。


 「でもまだ帝級魔法を僕は知りません!!」


 最上級の魔法をまだ教えてもらってはいなかった。


 「レオン、真に強いものは何か知っているか?」


 どこか物憂げな表情を浮かべて、ウィルヘルミナは僕を見つめた。

 魔法というのは世界で唯一、その理を捻じ曲げることの出来るものだと教わった。

 なので、やはり真に強いものは魔法のはず。

 その中でも最上級の魔法である帝級魔法だろう。


 「帝級魔法ですよね?」


 そう答えるとウィルヘルミナは沈痛な面持ちで答えた。


 「答えは命の輝きよ。私の知る帝級魔法はただ一つ、力の代償として命を削るものだ。そんなものお前には教えたくない」

 

 理を大きく捻じ曲げるための代償、ということなのかな?

 

 「どうしても帝級魔法を学びたいと思うのなら、人間たちの元で探すといいわ。きっとどこかに千年前の大戦のときに大魔導師聖バルトロマイが書き遺した魔導書があるはずよ」

 「人間たちの元に、ですか?」

 「そう、調べたところによれば人間達の高等教育は十二歳からなのだそうよ。あなたも来年の春には入学できるの。だから人間の学校に行きなさい?」


 ウィルヘルミナ程の存在が、もう教えることがないっていうのに人間に教わることなどあるのだろうか……?


 「レオンはこの後の人生、どうやって生計を立てていくつもりなのかしら?」


 ……確かにそんなことは未だ考えたこともなかった。


 「どうしてもって言うなら、私が養ってあげないでもないけれど、自立するのなら職業について生計を立てていく必要があるわ。そのためにも学び舎に通う必要があるのよ」

 「お姉ちゃんが養ってあげてもいいよ〜?」


 剣の師匠ニナベルさんが手を挙げてぴょんぴょんと跳ねた。


 「そうだね……いつまでもおんぶにだっこじゃだめだよね……僕、人間たちの学校に行くよ」


 我ながら自分が人間じゃないみたいな言い方だな、と思う。

 

 「え〜言っちゃうの〜」

 

 ニナベルさんが残念そうに言った。

 正直言って、ここでの生活は楽しいし、魔法の師匠と母の代わりとなってくれたウィルヘルミナ、剣の師匠のニナベルさんとの別れは惜しい。

 でも僕だっていつまでも二人に迷惑をかける訳にはいかないし、何より帝級魔法を学んでみたいという思いがあった。


 ◆❖◇◇❖◆


 レオンが旅立つ日の前夜、ウィルヘルミナとニナベルは夜更けまで話し込んでいた。


 「本当に送り出すの〜?」

 「えぇ、彼には私の代わりを期待しているわ。そのためにも帝級魔法の魔導書を見つけてそれを習得して欲しいの」

 「でもそれって敵の書いた魔導書だよね?」


 聖バルトロマイ―――――人族の救世主として現れ、人族の裏切りにあい非業の死を遂げた稀代の魔術師。

 その怨念は神竜であるウィルヘルミナ、神霊であるニナベルをもってしても簡単には抑え切れるものではない。

 

 「それと、代わりってことは……【根源爆発ルート・エクスプローシブ】をするつもりなの?」


 ニナベルの問にウィルヘルミナは何も言わずただ頷いた。


 「私に出来るのは、バルトロマイを一時的に活動停止に追い込むことぐらいよ……」

 「神としての責任を話すつもりなのね……」


 いつものゆるふわなニナベルはそこにはいなかった。


 「これは仲間を守れなかった罪滅ぼしよ」


 かつて人族が魔族との間で繰り広げた大戦で活躍した五人の英雄がいた。

 大魔導師、神竜、神霊、槍使い、聖女。

 魔族を率いる冥王に与した槍使いが大魔導師を裏切り、大魔導師と恋仲だった聖女は精神崩壊を起こして自決した。

 最後に冥王ステュクスを滅ぼしたときはたった二人になってしまっていた。

 長きに渡る戦争が集結したその日、二人の前に立ちはだかったのは戦争で散った両軍将兵の怨念を吸収した大魔導師だった。

 二人は根源を持たない怨念となった大魔導師を滅ぼすことは出来ず封印するのがやっとだった。

 そして七百年余りの年月が流れた今、その封印が解かれようとしていたのだった。


 「私も付き合うよ」


 ニナベルは剣の柄をぎゅっと握りしめて言った。


 「助かるわ。最後までお供してちょうだい」

 「ふふっ、こればっかりはレオン君には頼めないね」


 二人は密かに覚悟を決めたのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 旅立ちの朝を迎えた。


 「ステータスを自分の目で確認してみなさい」


 初めてステータスという言葉をきいた。

 

 「何ですかそれは?」

 

 今の今まで知らなかったので、どうやって見るのかも分からない。

 素直にそう訊くとニナベルさんがため息をついた。


 「ミーナは大事なことを教えてないのね〜。ステータスオープンって唱えてみて」


 ニナベルさんに言われるがままにそう口にする。

 すると半透明の板のようなものが空中に現れそこに文字が刻まれた。


‡ステータス‡

 種族:人族

 年齢:11歳

 称号:『神竜の弟子』『神霊の弟子』

    『捨てられた者』『人間をやめた者』

    『神霊のお気に入りのショタ』

    『磨かれた女子力』『巨乳愛好家』

 レベル:247

 体力:24700

 魔力:24700

 魔法:帝級魔法を除く全て

 スキル:空間収納Lv20、剣術Lv18、

     体術Lv3、属性魔法Lv20、

     魔法耐性Lv20、物理耐性Lv20

     毒物耐性Lv5、鑑定Lv20


 ﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋﹋


 「誰かに性癖をねじ曲げられたあとがあるわね?」


 ウィルヘルミナが僕とニナベルさんを交互に見つめた。


 「誰かしらね〜」


 ニナベルさんはすっとぼけて明後日の方向に顔を向けた。


 「まぁいいわ。レオン、辛くなったら戻ってきても構わないわ。楽しんでらっしゃい」

 「新たな生活に祝福あれ〜」


 二人に見つめられながら、魔法を発動させた。


 「行ってきます」


 【飛行フライ】の魔法を行使すると急速に二人の姿が小さくなっていく。

 気付けば、雲の上だった――――。

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