第九話 オープンキャンパス

 小休憩を取った後、俺たちは大学の施設巡りをすることになった。元はといえば、祭りではなく、こちらの方がメインの目的だったはずなのだが、「なんか出店飽きちゃった! 施設見学行こ!」という神楽坂の言葉を聞く限り、彼女の中ではキャンパス見学の方がオマケ感覚だったらしい。

 だが、施設巡りを始めてからは、その意識も変わっていったようだった。


「ここはお前が志望している芸術工学部の研究棟だ。一階は音響系の研究ゾーンだな。無音室であったり、音波の計測機器であったり。特別な部屋やら精密機器やらがごまんとある」

「うわ、すっごい……大学って、てっきり勉強するだけのところって思っとった……」

「まあ、大学は教育機関だが、同時に研究機関でもあるからな。九州ナンバーワンともなれば、これくらいの施設はあるし、表彰された研究者や学生も多い」


 研究棟の廊下を通った時は、窓から中を覗いて目を輝かせていたし。


「ここは芸術工学部・第一講義棟だ。文字通り、学生が授業を受けている場所だな」

「ん、第一? なら、第二もあると?」

「ああ、第四まであるぞ」

「え!? 多くない!?」

「一学年の生徒数が多いからな。なんなら工学部はもっと多い。第八まである」

「多すぎるばい!?」


 講義棟を訪れた時は高校と大学の規模の違いに、気持ちが良いくらいに驚いていたし。


「そして、全ての講義棟は受験会場も兼ねている。半年後に試験を受ける時、お前はもう一度ここに来ることになるだろう」

「決戦の場、ってことか……」


 次は客としてではなく受験生として、この場所を訪れると告げた時。彼女は張り詰めた表情で講義棟を見つめ、試験本番をシミュレートしているように見えた。

 結果的に、キャンパス見学は神楽坂に良い刺激を与えていたように思う。施設を見ることで未来のキャンパスライフを想像し、試験会場に来て緊張感を持った。多少は『合格』という今の目標にも現実感を持ったことだろう。狙い通り、『気分転換を兼ねてモチベーション向上』という俺の目的は果たされたわけだ。

 だが、最後に一つ。俺にはまだ、やるべきことが残っている。

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