3 Kopfkino/頭の中の映画館
3 Kopfkino/頭の中の映画館
その日は生憎の曇り空であった。灰色の雲は空を覆い日光を通すことを許さない。今にも雨が降ってきそうな空模様だった。
映画館はショッピングモールの一角として配置されていた。カフカは結菜と初めてあった時の服装を着ていた。それは外出用の服装だった。少しでも自分がここにいるという証明をするのも兼ねていた。
スクリーンを前に二人は何も話さなかった。話せなかった。あまりに大きなスクリーンは美しい映像を流した。ポップコーンは彼女の膝の上に置き去りになっている。口に運ばれるのは無意識下で行われ、塩味は舌の味覚を刺激した。
カフカは理解できた。映像内での出来事を主人公達の苦悩を葛藤を恋をすべて理解できた。
結菜は理解できた。死んだ父親の言葉が、カフカの存在が。それは結菜の心に答えを書いていく。だがそれは一瞬の心の猶予であり、現実が赤線を引いていく。それは心を締め付けた。
唇を噛み締めカフカの方を向いた。彼がどこを向いているかは結菜にはわからない。彼女の人生は何もない一つの部屋だった。できることならその部屋を華やかに飾り付けをしたい。だが彼女一人ではその行為は到底できない。飾りつけたところでそれをゴミ箱に捨ててしまう者がいる。
彼女は今ここで言うしかなかった。今ここで決意しなければならなかった。映画内で彼らは結ばれなかった。
一歩踏み出したが走り出すことができなかったのだ。それが彼らが結ばれず互いに想い合うだけになってしまった原因だ。彼女にそれは到底耐えられなかった。想い続ける事はできない。結ばれたい。彼女の心はその一心だった。
「ねぇカフカ。私の人生を飾って? 私と結ばれて」
いつにもなく小さな声で放った一言はここが映画館だと再認識させる。
カフカはありもしない目を見開いた。その目で捉えた彼女の顔はいつになく真剣なものだった。カフカはバックからノートとペンを取り出し書き込んだ。
『僕は君にとって毒虫だ。僕と生活すれば不自由な事も多いだろう。それが僕には耐えられない。君が苦しむのが耐えられないんだ。それに君は僕を見たことがない。一度も。君はそれで幸せだと感じられるのかい?』
不幸なわけがない。
「私は……私は……あなたと。カフカと、一緒に生きたい」
声は小声ではなかった。カフカはノートに書き込んだ。結菜は暗い映画館内で目を凝らし、その字を読んだ。
『君の人生を飾らせてほしい。これが君への愛の言葉だ』
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