4 Rouge/赤い口紅

4 Rouge/赤い口紅



もしこの世界に君がいなければ、希望は見出せていただろうか。君がいなければ、この世界がこんなにも美しく見えることなどあっただろうか。

帰り道は月明かりが二人を照らした。眩しいほどの月明かりは白色の光なのだろうか青色の光なのだろうか。結菜にもカフカにもそんなことは関係なかった。


「そう言えばカフカって今何歳なの?」

『二十歳』


そう書かれていた。カフカは確信はなかったがそのような気がしていた。結菜とカフカは帰り道に約束をしていた。二人で駆け落ちをすると。初めはカフカが反対したが最終的に結菜に同意した。

二十四時、それが決行の時間だった。その胸を締め、喉から何かが出てきそうなものは本当に恋心なのか、結菜には確信がなかった。だが彼女は考えることを放棄した。

疑いたくなかった。別にいいじゃないか。黄ばんだ白い校舎で送る青い青春のような恋物語よりかも美しいじゃないか。綺麗じゃないか。愛した人との逃避行。偽りなき純愛だよ。

結菜はカフカとわかれ、家へ入った。部屋はいつもと変わらない光景だった。綺麗に見えるその部屋だが床には中途半端に潰れたビール缶がいくつか落ちていた。

心を何かが締め付けた。それは目の前の光景が原因だった。


「結菜、どこ行ってた?」


義父は缶ビールを飲みながら言った。結菜は咄嗟に壁掛け時計に視線を移した。時間は十八時を過ぎていた。彼女の顔から血の気が引いた。なぜ忘れていたのだろう。

なぜ時間を気にしなかったのだろう。なぜ自分は現実のことを忘れていたのだろう。


「ごめんなさい。映画を見に行ってたの」

「映画?」


彼の一言一言で彼女は後退りをした。


「映画を見に行ってて、忘れてたの」

「映画を見に行ってたから、飯も風呂も何も

やってなかったと? 映画に行くことは誰が許可した?」


結菜は黙っている。


「誰が許可したんだ!」


彼は机を叩き、怒鳴った。


「最近お前を外に出した時どこに行ってた?」

「えっと」


結菜は言葉が出てこない。


「なんだ? 外で男でも作ってその家に行ってんのか? お前誰のおかげで生活できてると思ってる?」


義父の声は大きくなり、圧も生まれた。彼は立ち上がり結菜の腕を掴んだ。強く引っ張られた。


「ねぇやめてよ」


義父は何も言わない。トイレの前まで行くと義父は結菜を殴った。結菜はふらつき壁に寄りかかった。顔が熱い。殴られたであろうところが熱い。

口に手を当てると出血していた。義父はトイレのドアを開け、中に彼女を押し込んだ。すぐさまドアを閉めた。近くにあった棚を動かしドアの前に置き開けないようにした。結菜は中でドアを叩くがびくともしない。


「開けてよ!」


結菜は叫ぶが、外からの返答はない。その部屋にはドンドンと音が鳴り響いた。結菜は泣く事はなかった。口から出た血を指で掬い上げた。じっとそれを見つめると唇に塗り始めた。唇が赤く染まる。

自分がなぜそうしているのかはわからなかった。ただ、絶望していた。ここから出なければ、彼との約束を破ってしまう。結菜はトイレに腰掛け、考え始めた。

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