第206話・ゴキブリ退治・その一

 一階の通路は結構広いね。車が対面通行出来るくらいあるし天井も不思議なほど高い。


 なんというか圧迫感がないのがいいね。


 しかしまあ、一階には十代半ばまでの若い子しか居ない。


 剣士のジム君は相変わらずムスっとしているし、シーフのダット君は空気スキルのせいか無口だ。


 おしゃべりなのは女の子の二人で少し話を聞いてると、帝都の周辺はほとんど畑なので帝都の外で魔物と戦うなど出来ないんだとか。


 魔物と戦うのはダンジョンが一般的なので、若い子が多いんだそうな。


 まあ一階はオヤツ代程度にしかならないらしいが。


「おい! 逃げろ! 初心者狩りの賊が居るぞ!!」


 時々現れるネズミを退治してると害虫駆除にでも来てる気になるが、十五才前後の軽装戦士が血相を変えてこちらに走って来ると少年少女達に緊張感が走る。


「初心者狩り?」


「最近出没してる盗賊だよ!」


 軽装戦士はオレ達に忠告しながら逃げていくが、詳しい話を聞く前に一人のおっさんがまた走って来る。


 世紀末世界のやられ役のようなスキンヘッドのおっさんだ。ついでに不潔そうで薄汚れてる。




「チッ。一階に大人が居やがる。どこの馬鹿貴族だ?」


 抜き身の剣を右手に持ったまま走って来たおっさん、オレ達を見ると舌打ちして構えた。このおっさんが賊な訳ね。


「その鎧……。近衛兵のものだね。バルバドス派の逃亡兵ってとこか」


 怯える少年少女達をクリスやメアリーさんと一緒に、オレとエルとケティで守るように前に出る。


 オレも守られてる側かもしれないけど。気持ち的にはね。


 ロボとブランカもやる気で隙を伺ってるけど、盗賊のおっさんは運が悪い。ダンジョンに来ても満足に戦えていないジュリアが、獲物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべてるんだ。


「女ごときがぁ!!」


 舐められてるのを相手も理解したらしい。でも多勢に無勢だよ。魔法を使えるとか、特殊なスキルが使えるんじゃないなら逃げるべきなのに。




「ギャー!!」


「なんだ。弱いじゃない」


 おっさんの悲鳴に思わず耳を塞ぎたくなったが、原因はジュリアじゃない。


 斬りかかろうとしたおっさんにクリスがレーザーガンを発砲したら、おっさんの頭をかすめたようで恐怖のあまり悲鳴をあげたらしい。


 クリスは空気を読まなかったんだね。まあ盗賊は見つけ次第殺すのが当たり前な世界の住人だからか。


「仲間は何人だい?」


「ふん!」


 呆気に取られるオレと少年少女達を尻目に、ジュリアはその隙におっさんの首筋にバスタードソードを突き付けていた。


 流石に戦闘になれば隙がないね。


「楽に死ねると思うのかい?」


「やれるもんならやってみろ!」


 バスタードソードで脅迫してもおっさんは怯まなかった。


「やるわよ」


「ギャー!!」


 あの、クリスさん。君は少しじっとしてて。


 威力を最小限に抑えたレーザーガンで、おっさんの腕を撃ち抜くとかやらなくていいから。


「どうせ近くに仲間が居るんでしょ? 死になさい」


「確かにそうだね。相手にするだけ時間の無駄ね」


 どっかの世界の盗賊キラー並みに躊躇がない。


 悪人に人権はないって言い出しそう。


 ジュリアもクリスの言葉に話を聞くのを諦めたのかバスタードソードを引き、思いっきり股間を蹴り飛ばした。


「これで逃げられないでしょ」


「さっさと残りを始末しに行くか。ああ、君達は先に戻ってて。ケティを一緒に行かせるから」


「……オレも連れて行ってくれ!」


 口から泡を吹いて気を失った盗賊のおっさんのことはどうでもいいとして、見つけた以上は退治してあげないと駄目だね。


 ただ流石に少年少女達に見せる物でもないので彼らを先に帰そうとするも、ずっと無言だった剣士のジム君が真剣な表情で一緒に行きたいと言い出した。


 子供扱いも守られるだけなのも嫌なのかな?


 男の子だね。


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