第207話・ゴキブリ退治・その二

「敵は六人ね。人質が五人。さてどうする?」


 初心者狩りの賊達は、地下二階に降りる階段の手前に陣取っているみたい。


 初心者達の荷物を漁り、捕らえた初心者を高く売れると話してゲスな笑みを見せてるよ。


「スタングレネードで一気に片づけようか」


 あんまり科学的なアイテムは使いたくないけど、人質が居る以上はそうも言ってられない。


 スタン・グレネードは、ギャラクシー・オブ・プラネットでは初期からあったアイテムの一つだ。


 非殺傷性の閃光と爆発音で敵の目と耳を一時的に使えなくする、リアルでもあるお馴染みの兵器。


 たいした相手じゃないし突入するのはジュリア一人でいいだろう。


 少年少女達も手伝うと言うから連れてきたけど、出番はないね。下手に人数が増えると連携で逆に隙が出来そうだし。


 表向きはマジックアイテムということにしてスタングレネードの性能を説明する。合図をしたら耳を塞ぎ目を閉じてもらわないと駄目だからね。


「3……2……1……」


 曲がり角に隠れて賊の中にスタングレネードを投げると、閃光が見えて爆発音がこちらにも響いて来る。


 ロボとブランカは耳をしゅんと垂らしていて、防護用のヘッドホンをしたクリスとケティが耳を塞いでやってる。二匹は自分で耳を塞げないからな。


 すぐにジュリアが突入すると、何の波乱も駆け引きもなく全員制圧完了です。


「これで終わり?」


「うそ……」


 少年少女達はあまりに呆気ない幕切れにポカーンとしてるが、リアルはこんなもんなんだよ。地球と違って説得とかないから早くていいね。


「殺さないの?」


「ええ。もしかしたら手引きしている者が、外に居るかも知れませんので」


 賊も人質も全員生きている。エルとケティは捕まっていた初心者の子達を解放してから人質だった子達の怪我を治療してる。


 捕まる際に怪我をした子達が多かったみたいなんだ。


 クリスは賊を生かしておいたことに首を傾げてるけど、こいつらが亡くなったバルバドス派の近衛兵ならば、まだ近衛兵として部隊に所属したままの可能性がある。


 それにこいつらがどうやって捕らえた初心者達を、外に連れ出して売るのか気になる。


 確かにさっき高く売れると笑っていたんだ。


 考えたくないけどダンジョンの管理してる帝国の人間にこいつらの仲間が居る可能性があるんだよなぁ。


 エルはすでにこっそりと宰相に連絡して対応を頼んでる。


「さて、一旦外に出ようか」


 治療が終わる頃には賊の目や耳が回復して騒ぎだしたので、口を塞いで縛った連中と人質と一緒にダンジョンを出ることにする。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。


「全く、サミラスもだらしないね。こんな連中を野放しにしとくなんて。せっかくダンジョンに来たのに、小物退治をする羽目になったじゃないのさ」


「一応近衛兵なんだから、それなりの家のボンボンじゃないの?」


 解放した人質は涙を流して喜んでる。完全に奴隷として売り飛ばされると思ったらしい。


 ジュリアは賊退治をして少しは気が晴れたのか、バスタードソードで賊達を威圧しながら歩かせてる。


 ただ少年少女達が少しよそよそしくなっちゃった。


 何者なんだろうと言いたげなのは表情で分かる。


 仕方ない。今回も勇者様の名前で功績にしといて誤魔化そう。


 すべては勇者様のおかげと言えば一応筋が通る。ファンタジーって素晴らしいね。


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