第170話・また御家騒動なの?
「サミラス様ですか」
「サミラス兄上もほとんど会ったことはないが、わらわにも優しかったのじゃ」
ジョニーさんが皇帝と話を終えて帰ってきたけど、新たな面倒事を持って帰ってきたよ。
仕方ないけどね。自分が関わった以上、最後まで責任持つという態度は立派だ。最悪自ら帝国と戦う覚悟まで決めてるのも必要だと思う。
口約束なんぞ信じて、あとで知らんとか言われたら困るしね。
「悪いな。また面倒な事を頼んじまって」
「いいですよ。こう言えば怒るかもしれませんけど、意外にここぞという時には慎重ですよね?」
「ああ、相手はこっちより何枚も上手だからな」
ジョニーさんの怖いとこは、乱暴に見えても肝心な時になると慎重なとこかもしれない。力で戦える相手には力で挑むけど、ちゃんと周りや後始末を自分なりに考えてるからね。
個人的な意見だと、もし本当に覇王スキルが帝国に必要だとしても、皇帝にならなくてもやりようはあると思う。
期間限定で皇帝の権限を委任して、将軍なり総統なりにするとか。
そもそも神様との契約が必要なら、戦時皇帝として戦時にのみ即位して、終われば退位するのも一つの手だろう。
「皇位継承順位の高い人間は、すでに調査してます。第一皇子のバルバドス様は亜人排斥の過激主義者。第二皇子のサミラス様は、そもそも皇位継承自体に興味がありません」
「そんな人を皇帝にするの?」
「こちらの調査ではサミラス様は、他の皇位継承者に今は動くなと、釘を刺してるようです。どうもミレーユ様の行方も、密かに追わせて保護しようともしてる様子」
「何考えてんだ?」
「推測でしかありませんが、無難な落とし処を探してると思われます」
そんなジョニーさんが調べて欲しいって頼んできた、サミラスって皇子だけど。実は皇女様の件に関わった時に、すでに調査を始めてる。
というか重要な関係者は一通り調査してるよ。当然ね。
「無難な落とし処か。もしかして面倒な皇帝をやる気のある兄に押し付けて、自分はのんびり暮らしたい為に動いてるのかな?」
「そんな司令じゃあるまいし」
サミラスって皇子の貴族からの評価は、可もなく不可もなく。優秀で偉大な皇帝になると期待されていた、バルバドスって皇子と対照的だね。
ただエル達の分析からサミラスは皇位継承から逃れる為に、評価はわざと上がらないようにしていた可能性を指摘してる。
争い事を好まず軍に勉強の為に所属した時も、華々しい戦果のある部署ではなく裏方の方に所属したらしいし。
オレには今サミラスって皇子が動く理由は、自分が皇帝になりたくないか、家族で争いたくないかのどっちかと思うんだけど。ジュリアには否定されたよ。
「貴族達はバルバドス様の強引で残酷な一面に驚き、多少の能力不足でもいいからと、サミラス様を推す動きが強まってます。亜人排斥までは、ほとんど誰も望んでませんから」
貴族の人の気持ちも分かる。好き嫌いと排斥は別の次元の話だ。長命種に権力を与える利点と問題点を考えると、皇女様の皇帝即位には反対しても、殺せとは誰も思わないよね。まともな感性なら。
「それとバルバドス様の側近であるはずの、宰相閣下の動きも最近は妙です。他の貴族達の動きとは別なようですが。バルバドス様の命令に表向き従ってる素振りをするだけで、実際にはほぼ従ってません」
「もうごちゃごちゃだな」
「こちらは単独で動いてるようですが。ミレーユ様の殺害命令を、見つけたらまずは確認の為に報告しろと、バルバドス様と繋がりがない貴族や軍の部隊に命じてます。それと皇宮の奥に入れる料理人にも極秘に接触してます。もしかすれば軟禁されている陛下に、接触したいのかもしれません」
バルバドスって皇子はもうダメだね。流石のジョニーさんも、ごちゃごちゃだと面倒そうにため息をこぼしたけど。
味方のはずの宰相まで、これ見限られてないか?
「ジョニーさんは、サミラスって皇子様のとこに早く行くべきでしょうね。もう事態は動いてますし。宰相閣下のことはオレ達で見張ってますよ」
「それしかねえか」
実のところ皇帝とミレーユ様のお母さんの救出準備は、バルバドスって皇子が暴走した時の為にしてるんだよね。
宰相の動きを監視しても、たいした手間じゃない。
それよりサミラスって皇子を見極めるのが先だと思う。
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